謎、アクション、ドラマ、無数の暗喩……『進撃の巨人』の衝撃をあらためて分析
ところで本書には、幾つもの暗喩があるように感じられる。たとえば巨人を阻む都市の城壁だ。調査兵団を除けば壁の外に出ることを禁じられている都市の人々。たしかに平和に暮らすことができるが、檻の中に閉じ込められているということもできる。大きくいえば、現実から目を逸らし、鎖国している国家。小さくいえば、家から出てこない引き籠りを想起させる。巨人は、そのような閉ざされた世界を、無理やりこじあける存在とすることも可能だろう。だから都市の人々は、否応なく現実と向き合うことになるのである。
さらに付け加えれば、そのような都市で自由を求めるエレンや、外の世界を見たいと思っていたアルミンは異端者とならざるを得ない。ここで注目したいのが、エレンが何度も自由という言葉を口にすることである。巨人の襲撃から始まった激動の日々により、壁の外に出て、世界の広さを知ったエレン。しかしその世界にも、多くの枷がある。人が真の意味で自由を獲得することなどあるのか。後半のエレンの驚愕の行動も含めて、いろいろ考えずにはいられない。
人類対巨人の戦いから始まった物語は、何度もの曲折を経て、見事に決着する。憎しみの連鎖や民族浄化など、現実の世界と通じ合う題材とも真摯に向き合った作者は、世界が良き方向に進む可能性を指し示す。しかし最終巻のラスト近くのあるコマを見ると、世界から戦争がなくなることはないようだ。世界は愚行と希望に満ちている。どちらを選ぶかは、人類の一員である私たちしだいなのである。