『ブルーピリオド』アニメーションが最大限に引き出す原作の魅力 動き、色、音の素晴らしさを解説

『ブルーピリオド』原作とアニメを比較

 「マンガ大賞2020」をはじめとする数々の賞を獲得し、注目を集める『ブルーピリオド』。9月22日に11巻が発売され、10月1日にはアニメの放送が開始した。

 ファンの大きな期待を受け、満を持して放映された「ep.01 絵を描く悦びに目覚めてみた」。美術の楽しさを表現し、表現することの苦悩を描いた本作を、アニメならではの方法で表現したと感じるものであった。本稿では原作と比較しながらアニメ版『ブルーピリオド』を振り返っていきたい。

 漫画作品を原作としたアニメの醍醐味として、静止画として描かれた「動き」が映像として表現される点が挙げられるだろう。本作のアニメでも漫画に動きが加わったと感じるシーンが多く見られた。

 自身のタバコを回収するため美術室を訪れた「矢口八虎」が目にした、美術部員である「森まる」が描いた1枚の大きな絵画。漫画では作品の前で立ち尽くす八虎と共に、絵の中にいる女性の横顔がアップして描かれたコマ、そして八虎を見るように女性の顔の向きが変化したコマが描かれた。

 アニメも漫画と同様に女性の顔がアップで描かれたが、女性がゆっくりと顔の向きを変える時間の経過や、八虎にウィンクをする様子が加えられた。漫画のコマとコマの間に存在する時間が補完され、まるで森先輩の作品が生を得たように見えた八虎の衝撃を、視聴者である我々まで追体験させられるようなリアリティを覚えた。

 森先輩の作品に衝撃を覚えた八虎は、美術の授業で水彩画を描くこととなる。八虎が画用紙に水と絵の具を染みこませた筆を乗せると、筆の青色が時間をかけて紙に滲(にじ)んでいく。漫画では「しゅん…」という擬音と共に描かれたシーンであるが、アニメでは映像の特性を用いて水彩画特有の感覚がリアルに表現されたと言えるだろう。

 また多くの漫画作品はモノクロのページが大きな割合を占める。原作に登場する場面に色が加わることもアニメ化の大きな魅力だ。とくに『ブルーピリオド』は美術を題材として用いているため、色彩に関連するシーンが多く描かれる作品である。

 森先輩の作品を見て八虎が不思議に感じた「緑」。“あなたが青く見えるなら/りんごもうさぎの体も青くていいんだよ”という森先輩の言葉を聞いて染まる八虎の頬の「赤」。八虎が早朝の渋谷で感じた「青」。八虎が自室の窓から眺めた夕焼けに染まる住宅街の「橙」。

 原作の描写に色が加わることで、八虎が目にした景色と抱いた感情を鮮明に体感することができる。とくに美術の授業で八虎の作品が掲示されたシーンでは、周りに青色と異なる色を主体として描かれた作品が存在するからこそ、早朝の渋谷を描いた絵の青さはより際立って見えた。

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