カラテカ矢部太郎、なぜ漫画家としてブレイクした? 新刊『僕のお父さん』に光る“お笑いのセンス”

カラテカ矢部、漫画ブレイクの理由

 漫才やコントを見ているようにも感じるユーモアで予想できない展開によって、読者は矢部氏の描く世界観に引き込まれてしまうのである。

 矢部氏の作品は感動話に着地することが少ないが、読者からは大家さんやお父さんとの日常を見てあたたかい気持ちになったという声が多く聞かれる。これは矢部氏の作風が影響しているだろう。

 『大家さんと僕』に登場する、亡くなった後のことを考え家の物を整理したり、遺影を選ぶ大家さんを矢部氏が目にしたというエピソード。その後に近所で大家さんの姿を見かけたときの心情を、矢部氏は描いている。

大家さんはゆっくりゆっくり歩かれていて
いつもより小さく
暗い顔に見えて
僕は
声をかけずに過ぎてしまいました。

 矢部氏は作中で自身の喜怒哀楽を描くことが非常に少ない。しかし読者であるわたしは「矢部さんは大家さんを元気づける一言をかける自信がなかったのかもしれない」や「矢部さんは大家さんが亡くなってしまう未来を想像したくないのではないか」など、矢部氏の心情を想像することができる。いや、作品の世界観に没入していたからこそ想像してしまったのだ。

 作中であまり明かされない矢部氏の心情を想像することで、読者は能動的に感情の高まりを感じられる。まるで漫才を見ているかのような気分で読むことができ、思わず矢部氏や登場人物の心情について考えてしまう余白こそ、矢部氏の作品が様々な人に親しまれ、多くの感動を生み出した理由なのだろう。

■あんどうまこと(@andou_ryoubo)
フリーライターとして漫画のコラムや書評を中心に執筆。寮母を務めていた。

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