葛西純がプロレスTシャツ界でもカリスマな理由とは? 伝説のTシャツデザイナー・植地毅インタビュー
Tシャツはアイデンティティを表現するもの
ーーいまでこそTシャツやグッズを個人で作って売るというのは当たり前というか、インディレスラーのビジネスとしてスタンダードになってますよね。植地:そうそう。でも俺の知る限り、日本人選手でそのスタイルで物販はじめたのは葛西選手が最初だよ。その後、アブドーラ小林選手からも「俺にもお願いします」と、当時新横浜にあった居酒屋海坊主に呼び出されて(笑)。それで『信州信濃之流血機械』Tシャツをデザインしたんだよね。あれもよく売れたみたいでよかった。
ーーそれからロメロの『モンキーシャイン』風の猿オモチャをフィーチャーした葛西純自主興行記念Tシャツなどを作りつつ、大日本プロレスでもいろいろ出してましたよね。2010年の大日本プロレス15周年記念Tシャツは、大日にとってトラウマというか黒歴史だった熊をあしらっていて(笑)。
植地:大日本プロレス15年の歴史で、招聘を実現できなかったデスマッチレスラーは「熊」だけだということでね。まぁ、ちょっとした遊び心でデザインさせてもらったんだけど、その記念大会の横浜文体に行ったら、スタッフみんな熊のTシャツを来てて(笑)。全員に着るなんて聞いてなかったから、ちゃんと教えてくれたら熊なんか使わなかったのに(笑)。
ーーそれからまたプロレス界からは徐々にフェイドアウトしていきます。
植地:黄昏番長というデザイナーが俺を慕ってくれていて、いまの葛西選手のTシャツや他のグッズのマーチャンダイズを担当してる。葛西選手も「クレイジーファクトリー」という自身のブランドを立ち上げることになったんで、俺がやった過去のデザインも全部黄昏番長に預けたというのが、今日までの流れだね。彼がこの路線を引き継いでくれれば安泰ですよ。そういえば、クレイジーファクトリーのマスコットキャラも俺が描き下ろしたんだよ。藤子不二雄A先生テイストでっていうオファーで。葛西選手が化膿止めの薬の処方箋の隅に描いたイメージラフを元にして(笑)
ーーアレも植地さんでしたか。その後は黄昏番長のブランド『SLAUGHTER HOUSE』からリリースされた「グレート東郷」Tシャツのデザインで、プロレスTシャツはファイナル宣言しつつ、植地さんは自身の個人ブランド「DEAD AND BURIED」レーベルを立ち上げてコダワリのTシャツをリリースし続けています。植地:Tシャツはアイデンティティを表現するものだし、コミュニケーションツールだし、外交カードでもある。お気に入りのTシャツ着てるというだけで、知らない誰かと仲良くなれることもあるからね。いいTシャツを着ると気分が変わる。今日は葛西選手のTシャツが着たいという気分の時に、その葛西選手のTシャツが手元にあることが大事なんだと思います。
ーー自分が着たくなるTシャツを作っているというのもあるんですね。
植地:そうそう。むしろそれしか無い。だから、俺にとって究極のTシャツは『ど根性ガエル』のピョン吉に原点がある。デザインじゃなく、コンセプトね。生きてて、喋って、主張してきて、友達づきあいもできるTシャツ。それがTシャツ作家として目指すべき理想であり着地点です。
ーーすごい理想! どっこい生きてるくらいの存在感が必要なんですね。
植地:そういう意味では、『ど根性ガエル』に登場する、ゴリライモが着てるTシャツもヤバい。でっかく『ゴ』って書いてあるだけのやつ。自分のあだ名の一文字を入れるなんて、オシャレだし、強烈な自己主張を感じる。実は、俺がデザインした『ポーゴTシャツ』の『ゴ』は、あのゴリライモの「ゴ」のイメージを投影してるんだよ。誰にも伝わらないだろうけど(笑)。
ーー言われてみれば! となると、あの『ポーゴ』のロゴは『ガンプラの箱絵』+『会場内のコール感』+『ゴリライモ』のハイブリッドなんですね。心に響くはずですよ。
植地:まぁ、Tシャツ作家としては、W★INGや葛西選手のTシャツをデザインできたことは非常に光栄でした。これからもファンの人たちが、今日はプロレスのTシャツが着たいなあって気分の時に、常に自分の作品がそばにあってくれれば、それはもうデザイナー冥利に尽きます。これからも頑張りたいと思うし、励みになりますね。
(画像提供/黄昏番長)
■書籍情報
葛西純 自伝『CRAZY MONKEY』
定価:1,700円+税
出版社:株式会社blueprint
blueprint bookstoreにてサイン本発売中!
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