『呪術廻戦』『DEATH NOTE』『ヒカルの碁』……ジャンプ漫画における「憑依」を考える

ジャンプ漫画における「憑依」を考える

「憑依」を描き続ける漫画家・小畑健

 また、ここまであえて触れてこなかったのだが、『ジャンプ』系の人気作家の中にひとり、まさに「『憑依』というネタに取り憑かれている」としかいいようのない漫画家がいる。

 小畑健だ。

 ご存じのように、小畑は物語作りを他の原作者に任せることが多いのだが、企画段階で提示された物語(やキャラクター)を「描きたい」と思わなければそもそもペンを執ることはないだろうから、彼がこれまで描いてきた一連の作品を振り返ってみれば、おのずとその「漫画の好み」は見えてくるだろう。

 そう、小畑がほったゆみと組んだ『ヒカルの碁』も、大場つぐみと組んだ『DEATH NOTE』、『プラチナエンド』も、いってみれば「“人外の者”に憑かれた少年の物語」という点では共通しているのだ(タイトルを挙げた順にいえば、平安時代の天才棋士の霊、死神、特級天使がそれぞれの作品の主人公に憑き、知恵や力を与えている)。

 興味深いのは、ある物語では、憑依という現象を少年がより高い次元へいくための儀式のようなものとして描いているのだが、別の物語では、破滅へ向かうきっかけとして描いているところだろうか。そういうところに、この作者(たち)の「強大な力を得る」ということに対する考え方の多様性が垣間見えておもしろい。また、この観点からすれば、一見憑依とはなんの関係もない『バクマン。』(大場つぐみ・原作)でさえも、高い画力を持った主人公に、野心を持ったストーリーテラーが取り憑いた物語、という風に読めないこともないし、『人形草紙 あやつり左近』(写楽麿・原作)にいたっては、主人公が憑依されるどころか、逆に“相棒”の童人形に憑依して事件を解決していくミステリーだといえなくもない。いずれにせよ、小畑健という現代(いま)の日本の漫画界を代表する“絵師”のひとりが、「憑依」というテーマに繰り返し挑んでいることに、注目してもいいだろう。

なぜ憑依系漫画はおもしろいのか

 さて、こうした『少年ジャンプ』の「憑依系漫画」のいくつかから見えてくるのは、まず、憑依という現象が、多くの場合、主人公である少年の“成長”を促すための装置として機能しているということだ。つまり、主人公にとって、自分に憑いている“人外の者”はメンター(導き手)に等しい存在であり、それゆえに、物語の最終局面で少年が何かを成し遂げた暁には、彼らはどこかへ去っていく。

 そしてもうひとつ。「憑依系漫画」がおもしろいのは、ある種の痛快な「バディ物」としても読めるからだろう。本来は肌が合わないようなふたり、あるいは絶対に心が通じるはずのない人間と異類とが、強大な敵を倒すために共闘する。そんな熱い物語にカタルシスがないはずはないだろう。

 そう――つまり、少年に憑く“人外の者”とはメンターであると同時にバディであり、ある種の『少年ジャンプ』の漫画は、「友情、努力、勝利」ならぬ、「憑依、努力、勝利」の3大原則のもとに描かれているからおもしろいのだ――というのはいささか強引な結論だろうか。

■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69

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