湊かなえが語る、若者に伝えたいこと 「好きなものを職業にできなくても、それは挫折じゃない」

湊かなえが語る、若者に伝えたいこと

 放送部を舞台に全国放送コンテスト出場をめざす高校生たちの熱血を描きだす湊かなえの『ブロードキャスト』。著者初の新聞連載にして初の青春小説である同作に、このたび新たな“初”がくわわった。3月25日に刊行された続編『ドキュメント』の刊行により、初のシリーズものとなったのだ。3年生引退後、ドキュメント作品の制作をはじめた主人公・圭祐が遭遇する事件とは……。湊かなえに話を聞いた。(立花もも)

文章や動画を公共の場に発表することの怖さ


――『ブロードキャスト』を刊行されたとき、圭祐には最初にドキュメントを作らせるつもりだった、とおっしゃっていました。ということは、本作こそがもともとも構想にあったということでしょうか?

湊かなえ(以下、湊):そうなんです。最初に新聞連載のお話をいただいたときに作った大筋のプロットは、今回の『ドキュメント』のほうで、ラストまでの流れもできていました。ただ、いざ書き始めてみると、まずは「放送部ってどんなところなの?」というところから丁寧に描いたほうがいいなと思うようになって。圭祐は、中学時代は陸上競技に青春をささげていて、高校に入ってからも親友の良太と一緒に部活で走るつもりだったスポーツ少年。「文化系なんて……」と思っている彼が、少しずつ魅力を知っていく形にしたほうが、放送部に興味のない読者の皆さんも置いてきぼりをくらわなくて済むんじゃないかな、と。

――圭祐の“声”に惚れた正也の誘いで放送部に入ることにはなりますが、最初はそんなに乗り気じゃなかったですもんね。

湊:正也みたいに「放送部で脚本を書くんだ!」という確固たる夢を掲げている子を主人公にしてしまうと、読者に道を一本しか提示できなくなってしまうなとも思ったんです。もちろんそれは悪いことではない、むしろ素敵なことではあるんだけれど、そういう高校生って多くはない気がしていて。圭祐にも、走りたいという目標はあるけれど、それが将来に結びつくかどうかまでは考えられないし、性格的にもあまり自分の意思では動かない子で(笑)。

――どちらかというと巻き込まれ型というか、流されやすい子ではありますね。

湊:もういつも、半分に切った球体の上に乗っているみたいな状態で、ちょんと押されたら傾いて、バランスをとろうとしてはまた逆に傾いて、っていうくりかえし。でもそんな彼が、ぐらぐら揺れながらも、どうしたらまっすぐ立つことができるのかを模索していく姿を描きたいし、その過程を読んだ方が感じるものもあるんじゃないのかな、と。

――まさにぐらぐら揺れることこそが青春ですしね。『ブロードキャスト』のとき、「新聞離れしているといわれる10代が、毎朝読みたいと思えるような小説にしたかった」とおっしゃっていましたが、やはり今シリーズは高校生に向けて書かれている意識が強いですか?

湊:ふだんはあまりターゲットを絞る書き方はしないんですが、今回は……そうですね。新聞連載ということもあり、ニュースの切りとり方や気持ちの伝え方といったものを改めて考えたいと始めた作品で、それは大人にももちろん必要なことだけど、やはり高校生とか、若い方に届いてほしいなという気持ちで書いています。

――刊行に寄せたコメントでも「対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ」とおっしゃっていますね。

湊:誰もが文章や動画を公共の場に発表することができて、すべてが個人の裁量にゆだねられている今、取扱説明書みたいなものが絶対に必要だとは思うけど、つくっても誰も読まないじゃないですか(笑)。だからこそ、こういうことが起きる可能性があるんですよ、便利だしすごく楽しいからどんどんやればいいんだけれど、一方でこんなにも怖いことがあるんですよ、っていう想像の一端になるものが提示できるといいなあ、って。届いてほしい“多くの人”が善人ばかりとは限りませんからね。そして発信には、必ず感情が上乗せされる。たとえ事実であっても、作り手の感情によって一定の方向へ誘導してしまうこともあれば、肝心なことが伝えられないこともある。これまではプロが意識すればよかったことを、高校生にもしっかり考えてもらえる作品になるといいなと思っています。

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