栗城史多は本当に山を愛していたのか? 『デス・ゾーン』著者・河野啓が語る“元ニートの登山家”の実像

『デス・ゾーン』河野啓インタビュー

栗城史多は本当に山を愛していたのか?

――ここまでの話を聞いていると、栗城さんは山、そして登山を本当に愛していたのか?と考えてしまいます。

河野:……愛してはいなかったと思います。ただ、自分が生きていく場所だとは実感していたのではないでしょうか。面白いものを見つけたという手応えはあったと思います。最初にマッキンリーに登ろうとしたときに、みんなに止められた。でも、登れた。これは事件ですよね。「これで行けるところまで行こう。自分はエベレストに登れるはずだ」と。

 本書にも少し書きましたが、マナスルのキャンプでスタッフと話している映像があるのですが、「エベレストはもう誰でも登れる山になっている」と言っているんですね。「ボンベ背負って登っても、酸素吸って登っても、何も面白くない」と。「登れるのが分かりきっているのだから」と口元に笑みを浮かべて、自信たっぷりに語るんです。それを見たときに彼の中の登山というのは、自分がどう輝けるかを見せるエンターテインメントなんだと確信しました。それはテレビの世界も一緒で「同じことやってもつまんないだろ」と。彼は企画者として、人がどう飛びつくかということを常に意識していた。マッキンリーに登れていなかったら、同僚になっていたかもしれないと思ったことがあります。企画も面白いし、営業も出来る(笑)。

著者・河野啓

――輝ける場所を探していたというのは、ものすごく納得できます。栗城さんは地元のお祭りでも太鼓も叩かず、ひとり山車の上でSMのときにつける様な目隠しマスクをして、(チアガールが持つような)ポンポンがついた棒を振り回していました(笑)。 それが自分にとっての“栗城くん”ですね。

河野:弊社の職員で、栗城さんと同郷の者がいるのですが、まったく同じことを言っていました(笑)。

――そういう気持ちのいいところを見ている分、山を降りた後の栗城さんを見てみたかったというのが本音です。

河野:本当にそう思います。登山を辞めていたら、もしかしたら今金町の町長、下手したら国政もあり得たかもしれない。人に気に入られるキャラクターだったと思います。

――栗城さんが町長になった姿は、容易に想像できますね(笑)。最後になりますが、河野さんが本書で最も伝えたかったことはなんでしょうか?

河野:栗城さんを「トリックスター」だと呼ぶ方もいるのですが、そうではなく、私自身とさほど変わらない、ごく普通の人間であり、誰もがこうなる可能性は秘めていると思います。だからこそファンだった人にも、アンチだった人にも読んで欲しいです。それぞれの栗城さんに対する感情が変わると思っています。私自身も書いている最中に彼への印象が変わりました。

 そして、この栗城史多という人間の人生を描いた本を通して、その思いをなんらかしらの形で皆様の中で活かして頂けたら嬉しいです。

■書籍情報
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
著者:河野啓
出版社:集英社
価格:本体1,600円+税
出版社サイト

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