太宰治が誰よりも「転生」させられる理由とは? 異世界に、現代に……時には異能力者に変身も
太宰治は遍在する。高橋弘の『太宰治、異世界転生して勇者になる ~チートの多い生涯を送って来ました~』(オーバーラップノベルス)では異世界に。佐藤友哉の『転生!太宰治 転生して、すみません 』(星海社FICTIONS)では現代に。1948年6月の玉川上水から転移・転生しては、持ち前の才能や新しく得た異能の力で活躍する。
朝霧カフカ原作、春河35作画の漫画『文豪ストレイドッグス』(KADOKAWA)では、宮野真守のようなイケボで話す探偵になって難事件に挑む。大勢いる文豪たちにあって、どうして太宰治だけが引っ張り回されるのか? 恥の多い人生だったからこその魅力にあふれているからなのか?
川を流されていた「太宰治」が「中島敦」に助けられる。太宰は「福沢諭吉」が率いる武装探偵社のメンバーで、武装探偵社に加わった中島や、メンバーの「江戸川乱歩」「与謝野晶子」らと共に、「中原中也」や「芥川龍之介」が横浜で起こす事件に異能力を振るって立ち向かう。生まれた時代も、死んだ年齢もバラバラな作家や詩人や歌人たちが、同じ名前で美形や美少女のキャラとして描かれ、作品にちなんだ異能力をふるって暴れまわる作品が、『文豪ストレイドッグス』だ。
多彩なキャラたちにあって、太宰の人気ぶりは断トツだ。彼の「人間失格」という異能力は、誰かの異能力を打ち消すだけで攻撃したりはしない。飄々としていて優しげで、川があれば飛び込んでしのうとする姿が、守ってあげたい気持ちをかきたてる。切れ者で謎めいているところも、ファンの心を捉えてやまない。創作や恋愛に悩み、最後は愛人と玉川上水に飛び込んだ現実の太宰を知っている人なら、どこかシンクロする匂いを感じるだろう。知らない人が現実の太宰の作品を読み経歴を知れば、『文スト』の太宰に劣らず愛してしまうはずだ。
無頼の生き様と残した作品群が、太宰治という存在に強烈なキャラ性を持たせ、現実の壁を超越した支持を集めさせた『文スト』とは違い、太宰本人が時空の壁を超えてなお、強烈な存在感を放ち続ける作品もある。11月25日に出た高橋弘『太宰治、異世界転生して勇者になる~チートの多い生涯を送ってきました~』だ。
富栄という女性と玉川上水に飛び込んだ太宰が目を覚ますと、そこは異世界で川端康成という魔王に脅かされていることが分かった。川端といえば、太宰が授与を願って手紙まで書きながら、芥川賞をくれなかった憎い敵。異世界でも魔王として立ちふさがった彼を、太宰が勇者として倒す展開になるかというと、やる気に乏しい太宰は川に飛び込んで死のうとする。
そこで発動する異能の力。転生した太宰は、水でもカルモチンでも首吊りでも死ねない体になっていた。仕方なく川端に挑もうと、トミエという名の金髪で下半身が魚という少女を伴い、旅をする太宰の前に川端が現れ、異世界芥川賞をやると言って太宰を誘う。太宰なり、川端にまつわる数々のエピソードがモチーフになった会話が繰り広げられ、情景が描写される展開を、太宰のファンならニヤニヤしながら読んでいける。