髭男爵・山田ルイ53世が語る、娘の成長と家族観 「母親を“キャリア”と呼ばないのなら、キャリアウーマンなんてこの世にいない」
物書きにも漫才のネタづくりにも通じている、言葉のテンポ感へのこだわり
――娘さんに、家でカタカタと書き物をされているイメージを持たれていそうだとおっしゃっていましたけれども、山田さんはいろんなお仕事がある中で、物書きのお仕事についてはどんな感覚ですか?
山田:いやー、楽しくはないですね。だって、文章を書くのってすごく面倒くさいじゃないですか。ただ読んでいただいたときに「面白かった」とか言っていただけると、芸人として1ポイント入ったみたいな気持ちにはなる。まあ、間違いなく、雛壇ではじけるよりは得意なような気がします(笑)。
――先ほど、昔とは文の書き方が違うから加筆されたという話もありましたが、ご自身ではどのように変わったと感じられたのでしょうか?
山田:僕はあくまで自分は“物書きの真似事”だと思ってるので、偉そうなことは言えませんけど、そのときによって自分の中で流行りがある。ここ5年ぐらい文章書いてきて、たとえば、「体言止め」ブームとか(笑)。まあでも結局、やっぱりわかりやすさ、伝わりやすさが大事かな、と。漫才のネタとか書くときもそうですけど、髭男爵のネタって……まあ、「髭男爵のネタって」言われても全然興味ないと思いますけど(笑)。
――いえいえ、ぜひお聞きしたいです(笑)。
山田:ふふふ。髭男爵のネタって、要するに最初の大きなフリがあって、どんどんやりとりが短くなっていく作りなんですよ。ちゃんと台本見ると、至極真っ当な漫才(笑)。口幅ったいですが、結構、計算されてる。というのも、相方がやっぱり5文字以上ちゃんとしゃべれないとか制約が多くて(笑)。本当、指示されたボケを言ってるだけなんで、それでも成立する、ウケる、売れるネタにしないと、この人とできないなと思ったんで、そういう風にした。芝居力がないから、ニュアンスで面白くは出来ない。そこをテンポ感とか他の要素で補わないといけない。走り幅跳びの3歩で踏み切る、みたいなことをすごく重要視してやってました。逆に言うと、それで鍛えられた、他の芸人が考えなくても良いことに頭を使うきっかけとなった、ということはあるかも。感謝です(笑)。「5・7・5ときたら、7・7やん、7・4とか6・2ではダメやんか」みたいな日本語のリズム感は人一倍大事にしてきましたね。
――今後も本を出していきたいというお気持ちは?
山田:流石に今回でもう6冊目なんで、まあ死ぬまでにもうちょっと書くでしょうね(笑)。このコロナ禍で、僕は文章書く仕事してたから、ちょっと落ち着いていられたところがある。とりあえず「やることがある」っていうのは本当に助かったので。
娘が何者にならなくてもいい、ただ「パティシエはもう足りてる」とは伝えました
――このコロナ禍で、芸人さんのあり方も変わっていきそうですね。
山田:いわゆる地方営業のオファーというのは、ほぼなくなりました。ただ最近は「リモートの講演会」とか新しい仕事も増えてきているので。「お笑い第7世代」っていうワードが業界を席巻してますけど、あれを見たときに「俺って第何世代なんやろ」って考えたんですよね。僕はちょっと前に「一発屋相対性理論」という考えに至ったんです。一発屋というのは、時間の流れが違う。あるとき、ボカーンと、それこそロケットが打ちあがるような異常な売れ方をして、光の速度で宇宙を旅して地球に戻ってくる。すると、同期の時間軸からはじき出されていた。同世代と歩んでいく道からは外れてしまった……そんな感じ。だから一発屋は無世代。寂しい芸人なんです。あるいは、ポストイットです。「あの年、あの芸人が流行ってるときに、大学に受かったな」とかっていう、そういう記憶のシオリ的役割を担っているのかもしれません(笑)。
――今後、こうしていこうということは見据えていらっしゃるのでしょうか?
山田:僕は、そういうのが本当になくて。っていうのも、芸人を志したときも「これやめたらいよいよやることがないな」っていう、すごい薄いモチベーションでやってた。だから本当に何かしっかり目標を持って「俺はこれになりたいんだ」「これを成し遂げたいんだ」っていうのが全くない人生を生きてきたんです。今も全くない。それで良いと思っています。「長女が成人するぐらいまで、何とか飯を食わせる」ことくらいですかね。娘にも別に何にも期待してないです。こういうと、「なんちゅう親だ!」とお叱りを受けるかもしれませんが、別に何者にもなっていただかなくて結構。ただ「パティシエになりたい」って言ってきたときは、「もうパティシエは世の中に足りてるよ~」っていう話はしましたけどね。何年か前にパティシエのブームがあって、猫も杓子もパティシエになるって言ってる時代があったような気がしたもんですから、「しばらくの間、パティシエは日本に要らないんだよ」っていう(笑)。いや、あの業界も競争が激しいですので、なれるもんならなっていただきたいですが。
――そんな(笑)。では、娘さんが「芸人になりたい」とおっしゃったらどうしますか?
山田:正直、賛成はしないですけどね。こんなにめんどくさい、ほぼほぼ食えない仕事も他にないんで。一発屋と言いながら、10年以上芸で飯食えてるのなんて、自分で言うのも何ですが奇跡ですよ。漫画家とかならないかなーと妄想したりはします。もちろん無茶苦茶厳しい世界ですけど、当たったらデカいし。そこはやっぱり一発屋的思考ですね(笑)。
――たしかに(笑)。では最後の質問は、ムービーでお答えいただきたいんですが、将来娘さんが、パパが髭男爵だと気づいてしまったときのメッセージをビデオレターで伝えていただきたいです。
――ありがとうございます! ネットの海に流れたボトルメールのように、いつか娘さんのところに届くことを願っています。 山田:許してくれるといいんですが(笑)。最近はもう、髭男爵を検索しようとすると、official髭男dismさんが先に出てくる。最初は「なんでやねん!」っていう気持ちがありましたけど、自分が正体を隠しており、将来娘がスマホ持つこと考えると、今自分は“ヒゲダン”に守られているのかもしれないと感謝の念があります(笑)。でも娘のおかげで、どこかで正体を隠すスーパーヒーロー気分を味わえてるところもあり、楽しみもある。「メガネとったら髭男爵じゃん」のくだりを本にも書きましたけど、やっぱり『スーパーマン』のクラーク・ケントのメガネだけの変装っていうのは、本当に無力なんだなっていうことDCコミックスさんは考えて欲しい。ここに実践して、失敗した人間がいるので(笑)。
■書籍情報
『パパが貴族 僕ともーちゃんのヒミツの日々』
出版社:双葉社
価格:本体1,400円+税
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既刊『一発屋芸人列伝』(新潮文庫)
著者:山田ルイ53世
出版社:新潮社
発売日:11月30日
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