『破壊神マグちゃん』ジャンプ本誌のオアシス的存在に クトゥルー神話×ギャグ漫画の楽しさ

『マグちゃん』ジャンプのオアシス的存在に

 本作の楽しさは、流々とマグちゃんのやりとりにあるのだが、1人と1匹?の間にある絶妙なズレが読んでいて面白い。人間を下等生物と見下し、破壊神として尊大に振る舞うマグちゃんのことを、流々はあっさりと受け入れてしまうのだが、どれだけマグちゃんが恐ろしいことを話しても、マイペースに話を進めていく。一見、粗雑に見えるコミュニケーションの中に相手を心配する優しさが見え隠れするのが流々の魅力なのだが、流々とマグちゃんの噛み合っているようで噛み合ってないやりとりは何故だか妙に居心地が良い。ドタバタコメディの中にほっこりとする優しいやりとりが入るのも、本作の魅力である。

 ギャグ漫画としては、マグちゃんが現代の食べ物や道具を禍々しい言葉に言い換える姿がおかしい。納豆を食べた時は「まとわりつく粘液と腐臭が混沌を想起させる…高タンパクで肉体の再生にも有効である…」、ハンバーグを食べた時は『塩と油に塗れたなんとも逸楽的な供物よ……悪くない』、そして、プロフィール帳は『破滅使徒血盟の書』。そこに「食レポがマズそう」といった、さらっとしたツッコミを流々が入れるのだが、その距離感が絶妙で、漫才のようなボケとツッコミの激しい応酬でなく「何か変だけど、まぁいいか」という緩いトーンに収まっている。それがとても心地良いのだ。

 話が進むにつれ、流々のことを好きな幼馴染の藤沢錬や、マグちゃんと敵対する邪神『狂乱』のナプターク、かつてマグちゃんを封印した聖騎士団の末裔のイズマ・キサラギといった脇役の見せ場も増えていく。中でもマグちゃんの宿敵であるナプタークが魅力的で、登場する度に落ちぶれていく姿には妙な哀愁があり、彼が登場すると、ついつい気になってしまう。

 そして、隠れた見所が、流々の暮らす町の情景だ。流々の家は海沿いの田舎町にあり、学校もコンビニもスーパーも家から遠い。そんな流々にとってショッピングモールのマルノヤに行くことが、大きなイベントとなっている。全体に漂う穏やかな空気は、家と商業施設の距離が大きく隔てたロケーションによって生み出されているのだろう。こういう田舎町は物語の舞台になりにくいので、とても新鮮だ。

 ジャンプ本誌は今、『呪術廻戦』や『チェンソーマン』といったバトル漫画がハードな展開となっており、毎週、心が締め付けられる思いをしている。そんな本誌の中で『破壊神マグちゃん』は、疲れた読者を癒す心のオアシスとなっている。できれば末永く、少女と破壊神の平穏な日々が続いて欲しいものである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『破壊神マグちゃん』既刊1巻
著者:上木敬
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/maguchan.html

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