ヘレン・ケラーと比べられるのはもううんざり! 盲目の著者が綴った“怒りと愛の手紙”とは?

ヘレン・ケラーの知られざる素顔

 さらには悪いことに、世間に流通する「ヘレン・ケラー神話」は、ハンディキャップを自分の力で乗り越えることだと解釈されてしまった。いまどきの言い方であれば「自助」といったところか。著者はこうした風潮にはっきりとノーをつきつける。

「(ヘレン・ケラーの)生涯の物語が刻みつけてきた考え方は、障害とは個人的な悲劇であり、したがって文化全体としての慣習や責任の負担を通じてよりもむしろ、個人の不屈の精神と勇気を通じて克服されるべきものだ、というものです。そしてその考えが、社会全体の集団的な行動を通じて変えることができたであろう多くの個人的な問題に影響を及ぼしているのです」。

 ハンディキャップを抱える人びとに、社会全体があたたかく手を差し伸べることによって、状況を変化させていくことを著者は望む。何より重要なのは「公助」に他ならないという視点にも共感するところは多かった。

 読み終える頃には、目の見えない人びとに対して抱いている誤った先入観を痛感させられていた。多くの人は、目が見えないというだけでまるで聖人のように扱ったり、怒りや性欲が存在しないかのように思い込んだりと、どうも的外れな態度を取ってしまう。

 そうした無意味な先入観を取り除く意味でも、非常に価値のあるメッセージがつまっている。そして何より感じるのは、怒りの手紙を書きつつも、著者はヘレン・ケラーという存在を本当に愛しているということであり、愛情の大きさゆえに苦言も増える、厄介なオタクのような視点にも笑わせられ、共感した1冊であった。

【本書と合わせて読みたい推薦図書】

◆伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)

『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛を込めた一方的な手紙』のあとがきも書かれている著者による新書。「視覚障害者がどのように世界を認識しているか」をわかりやすくまとめた、読みやすくて発見の多い1冊。

◆斉藤道雄『手話を生きる』(みすず書房)

耳の不自由な子どもの学校「明晴学園」で、日々ろう児(聞こえない子ども)と接する著者による1冊。手話とはどのような言語か、知らなかった世界が大きく広がる感覚を味わえるすばらしい本。社会の見方を変える力のあるテキストであり、読んでよかったと必ず思える内容。

◆アンソニー・ドーア『すべての見えない光』(新潮社)

アメリカ人作家による小説。戦時下のフランスを舞台にした物語だが、作中に登場する目の見えないフランス人の少女のエピソードはすばらしい。町の地理を覚えさせるために、町全体のミニチュア模型を作るくだりが印象的。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

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