“ゆめかわいい”提示した雑誌「LARME」復刊号の狙いは? 人気インフルエンサー起用などの施策を考察
しかし、満を持して発売された創刊号は賛否がわかれることになった。SNSを見ると、いくつかの大きな理由にわけることができる。
(1)人気インフルエンサーの起用
先述したように、「お人形のような」モデルやアイドルが誌面を彩っていた「LARME」だが、復刊号の表紙を飾ったのは、多くの読者の様相とは異なり、インフルエンサー・なえなのであった。Tik TokやYouTubeで活躍する彼女は、「10代のなりたい顔ナンバーワン」と呼ばれ、SNSの累計フォロワー数も300万人を超える、人気インフルエンサーであることは間違いない。他にも多数YouTuberなどが登場しているが、従来の「LARME」のイメージとはそぐわないと、一部から反発が発生していた。思うに、インフルエンサーやYouTuberは「親しみやすさ」が重要な要素である。非日常的な孤高の美少を求める読者との需要のミスマッチがあったのかもしれない。
(2)量産型・地雷系ファッションの導入
なお、量産型・地雷系ファッションを纏ったモデルらが、歌舞伎町の路上やホストの看板前で撮影を敢行したページも話題を呼んだ。
「量産型・地雷系」のことは、こちらの記事(メイク動画の新潮流「量産型・地雷系」はなぜ人気? 藤田ニコルから峯岸みなみまで、ヒット動画とともに考察)でも触れたが、InstagramやYouTubeで注目されたファッションスタイルで、いわゆる「推し活(あるいはホスト客)」のファッションとされる。例えば、目の下を赤くする地雷系メイクは、「うさぎメイク」の発展系だと推測されるし、これらのファッションに「LARME」は少なからず影響を与えてきたのは間違いないし、歌舞伎町にはこういうファッションの女性が闊歩していることは事実だ(示し合わせたように二人一組で!)。しかしながらネット発のファッションスタイルを雑誌に持ち込んだことや、撮影場所が歌舞伎町という生々しさもあって、従来の「ガーリーで幻想的な世界」を求めていた読者にとってはショックなものだったのかもしれない。
(3)オーディション結果への不信感
グラビア誌にせよ、ファッション誌にせよ、SHOWROOMなどの課金型動画サイトを通じたオーディションは珍しいものではなくなった。
なお、課金が直接票となるため、男性ファンを多数抱えたアイドルが有利になる傾向がある。新生「LARME」も同様にLINE LIVEを舞台にオーディションが開催されていた(なお、休刊前の「LARME」も、この種のオーディションを行っている)。
オーディションを勝ち抜いた上位の数名が撮影に参加したものの、撮影を行ったのに掲載されていないというアイドルのツイートが拡散された。なぜ掲載されなかったのか、理由が定かではないまま、次号に掲載されることが発表されたが、課金を重ねて応援してきたファンからは不信感を表明する声があがっていた。
様々な理由もあって、SNSでは批判の声も大きいが、9月29日に発表されたプレスリリースによると、「LARME」復刊号は前号の3倍以上の売り上げを記録し完売したという。中郡編集長の最新のInstagramの投稿には「雑誌で描くのは人間の二面性。中心の安定ではなく、揺れる両極を追求する これは自分のための本なんだと思ってもらうこと。やっと自分たちの時代が来たんだと感じてもらうこと。」と綴られている。新生「LARME」は明確な意図を持って、(1)と(2)を行ったことが推測できる。(まあ、3に関しては何かしらの事務的なミスとしか考えられないが…。)
ネット上にある過去の中郡氏のインタビュー記事を読むと、自身のもとめる雑誌を作る上で、出版社の上層部、いわゆる「おじさん」との意見の食い違いについても語られている。つまり「おじさん」の手を離れて作った新しい国が、新生「LARME」ということになのではないだろうか。自身が創刊した雑誌のために会社を作る、これは現在の出版業界の中では、本当に革命的なことである。一読者として、そして、出版業界の末端にいるフリーライターとして、女の子のための新しい国の行く末が、私は気がかりでならないのだ。
■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。8月6日に市川哲史氏との共著「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)を上梓。新刊『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)発売中。Twitter