上下関係をもたないマネジメントで注目「ティール組織」は実現可能なのか? その長短を考える
『ティール組織-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(作者:フレデリック・ラルー,嘉村賢州,鈴木立哉 英治出版)が話題となっている。2018年1月に日本語版が発売されて以来、当の日本においてその反響が極めて大きいようだ。
このコロナ禍でテレワークが常態化する中、上司はマネジメントスタイルも変えていかなければならないのだが、それができない上司が部下に対して、マイクロマネジメント(過度に干渉するスタイル)などをしてしまいがちだ。そうならぬよう、多くのマネジャーが次世代型の理想的な組織を求めて、同書を手に取っているのだろう。
ティールと名付けられた進化型組織は達成型組織と対比される。
まず、達成型組織の特徴として、頑張らないと市場やライバル企業から淘汰され、生き残れないという恐れに訴えかけるマネジメント、役割や肩書、上下関係を前提とするピラミッド型の組織、そして実力主義・能力主義など競争原理の採用だ。
それに対して進化型組織では、常に組織の社会的使命や存在目的に立返るマネジメント、社員各人が役割や肩書、上下関係をもたない中で自主経営し、自身のすべてを職場に持ち込み、すべてをさらけ出して仕事をする。
筆者もどちらかといえば達成志向の強い組織に所属してきたし、組織が求める様々なプレッシャーにも耐えてきた。またこのような組織は、例えば上下関係に不慣れだと言われているゆとり世代などにも、多大なストレスを与えていることは想像に難くない。
そんな筆者や一部のゆとり世代などにとって、ティール組織はパラダイスのように思えるし、組織やそこで働くメンバーが活性化することは容易に想像がつく。
また、近年『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎・古賀史健著 ダイヤモンド社)などのベストセラーで一躍有名になったアドラー心理学の見地からも、このような組織が社員の好ましい資質や能力を引き出すことが分かる。
ちなみに、同心理学は別名「勇気づけの心理学」とも言われ、その内容はコミュニケーションに必要な「心構え」と具体的な行動を考える上で大いに参考となる。
なお、アドラーが考える勇気とは、次の3条件を満たした人のことだ。
・リスクを引き受ける能力
・困難を克服する努力
・協力できる能力の一部
そして、勇気づけとは互いに自尊心と達成感を与えあうための継続的なプロセスである。
この勇気や勇気づけは、好ましい資質や能力をそなえたメンバー同士が、まさに理想的な組織で実現しようとするプロセスと一致している。
ちなみに勇気のある人は、対人関係の側面において6つの資質を備えているが、ここでは特に(1)「尊敬と信頼で動機づける」と絡めてティール組織の長所を論じたい。
(1)尊敬と信頼で動機づける
(2)楽観的(プラス思考)である
(3)目的(未来)志向である
(4)聴き上手である
(5)大局を観る
(6)ユーモアのセンスがある
なぜティール組織は、外部環境から淘汰される恐れ、組織内部の競争に負ける恐れ、これらの恐れによる統制の副作用を訴えるのか。