UFO目撃情報が多発、その社会心理とは? 2020年のUFO像を考える

UFO目撃情報と社会心理の関係性

2020年のUFOに人々が託しているものとは?

 もはや、私たちの持たない知を隠し持っているとイメージされるエイリアンも、陰謀を企む政府も存在しない、と語る木原は、興味深いことにこう予言していた。

 このあと来たるべき新たな「異質なもの」は、災害や伝染病に対する不安というかたちで、虫かウイルスのような姿で現れるかもしれない。そこにあるのは近代の理想でもなく、陰謀でもなく、現実的な攪乱者の姿だろう、と。

 奇しくも2020年3月にはアフリカでここ数十年で最悪だと言われる規模でバッタの大群が襲来して食糧危機の深刻化が語られ、言うまでもなく新型コロナウイルスの脅威が世界を覆っている。

 ピーブルズは「輪郭がはっきりしないような、あやふやな危機感」がUFO目撃事件を引き起こし、具体的な危機が目の前にある場合にはUFOには人々の目が向かないと結論づけていたが、2020年になってUFOが騒がれた理由は、むしろ逆なのではないか?

 UFOや異星人はこれまで理想や陰謀を託された存在だった。つまり、叡知をもたらすにしろ、恐怖をもたらすにしろ、今のこの社会の「外側」から到来するものだった。

 2020年の今、われわれの社会を襲っているのはあまりにも現実的で避けがたい危機としてのバッタでありウイルスである。そこに現れたUFOは、「この社会、この現実の外側にある何か」を求める願望だろう。救済でも滅びでもいい、逃げられないこの現実の向こうに何かとんでもない力をもった存在がいてくれたら、この世界が変わるかもしれない、という望みが託されている。

 米国防総省が公開した動画を観ると、遭遇したパイロットたちはやけに楽しそうに謎の動きをする飛行物体のことを語っている。あのUFO動画は、気が滅入る日々に突如訪れた清涼剤のような内容だった。

 2020年のUFOは、うんざりするこの社会の惨状の外側にひとときだけでも目を向けさせてくれた、逃避の対象なのだ。

■書籍情報
『UFOとポストモダン』
著者:木原善彦
発売年月:2006年2月
価格:720円+税
出版社:平凡社新書

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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