才能は何歳からでも花開く『90歳セツの新聞ちぎり絵』 一人の女性の生活史としての側面

『90歳セツの新聞ちぎり絵』を読んで

 読み終えた時、どきっとした。作品集と思って手に取ったこの本は、木村セツという一人の人物を描いたノンフィクションだった。

 木村が生まれた1929年は世界恐慌の年。世界恐慌の後には、第二次世界大戦。学徒動員で紡績工場に行った木村は、B公(B29)の攻撃を受けたという。〈戦争が終わった時は、やれやれ、思いました〉という言葉の重みに胸がつまる。終戦。そして結婚、出産。体の弱かった夫に変わり、休む間も無く働き続けた人生を振り返るインタビューは、短くシンプルでありながら木村に肉迫し、心が揺さぶられる。自分のことよりも家族のこと、それが女性にとって当たり前だった時代を生き抜いて、木村が今のびのびと才能の翼を広げていることに希望を感じた。

 私にも高齢の祖父がいる。小学生の孫に代わって夏休みの宿題である“鳥の巣箱”を手がけ、まるで売り物のように完璧に作ってしまう器用な祖父である。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、どうか無事でいてほしい。そのために家にいてほしい。だから、この本をプレゼントすることにした。新聞ちぎり絵は家にある材料だけでできる。器用で、しかも負けず嫌いな祖父のことだ、次に会った時、きっと出来上がった作品を自慢げに見せてくれるだろう。そうしたら、祖父の人生についても聞いてみようと思っている。

■書籍情報
『90歳セツの新聞ちぎり絵』
著者:木村セツ
出版社:里山社
定価:1,800円+税
http://satoyamasha.com/books/2512

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