『昭和天皇物語』ヒットの要因はメロドラマ的構成と”顔芸”にあり? 漫画としての魅力に迫る

『昭和天皇物語』ヒットの要因は?

どこまでもひとりの人間として描かれる

 裕仁自身の日常が平穏に進むことを、取り巻く周囲の状況がそれを許さないため、常に物語は本人と周囲の二本の軸で動いている。周囲の軸が常に動きを与え続け、起伏に富んだ展開で物語は進んでいくため、飽きることなく一気に読み進められてしまう。話の引きを作るのも裕仁以外の人物の思惑であることが多いので、裕仁はこのあとどうなるんだろう(もちろん結果は知っているのだが)という興味が尽きることはない。これが大映ドラマだったら主人公は常に周囲に翻弄されて、思いもよらない結末に転がり落ちていくのだが、そこは主人公が裕仁である以上、そうはいかないものである。もっとも、このまま物語が進めば誰もが体験し得ない激動の渦に巻き込まれていくのであるが……。

 結果、『昭和天皇物語』ではあるのだが、現時点では裕仁はまだ天皇に即位していないので、あくまでも人間・裕仁の物語なのである。我々が知ることがない少年時代の裕仁の姿を見ることで、本来できるはずもない感情移入をできてしまうのは、ひとえにこの作品が漫画作品として高いクオリティを保っているからに他ならない。現時点(5巻終了)ではまだ裕仁は天皇にも即位していない。そういう意味では物語はまだ本当の意味では始まっていないのかもしれない。裕仁が「大元帥」になり、そして「象徴」になる。令和を迎えた今の時代、昭和は遠い過去の話になってしまっている。しかし、そんな今だからこそ、むしろこれからの若い人たちにこの漫画を読んでもらい、昭和という時代はいったいどんな時代だったのか、昭和天皇・裕仁がいかなる人物であったのか、どのような歴史を経て、令和という時代があるのかを知り、考える契機になってもらえたらと思う。学校の授業で学ぶより、よっぽど面白く、よっぽど前向きに自分のものにできるはずである。『昭和天皇物語』はもっと注目されるに値する、近年の作品群の中でも突出したエンターテインメント作品である。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、漫画、特撮、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

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