『こち亀』秋本治氏に学ぶ、スケジュール管理の重要性 40年間無休載を成し遂げた秘訣とは?
ブラック企業という言葉が誕生して、何年が経ったでしょう。働き方改革なんて言われていますが、みんなが快適な労働環境を手に入れるにはまだまだです。仕事に追われ、休日は疲れで昼までぐっすり……そんな人もいるのではないでしょうか?
「定時制」で働くアシスタント
今回紹介する書籍は『秋本治の仕事術』。秋本氏は、漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を40年間、一度も休載しませんでした。この本は、その仕事術について、分かりやすく解説したビジネス書です。漫画家と言えば、締切に追われて何日も徹夜、脱稿したらまっ白に燃え尽きる……そんな情熱的なイメージですよね。一般のサラリーマンと漫画家の労働環境はかけ離れていて、学ぶことが少なそう、と思うかもしれません。
その点、秋本治氏の立ち上げたマンガ制作会社「アトリエびーだま」は違います。正社員として雇用されたアシスタントは、一般のサラリーマンと同じく、9時から19時までの「定時制」で働いているのです。時間管理は、漫画家の職場としては珍しくタイムカードで行われています。漫画を描く上で効率化を図るには、意外にも定時制が有効なようです。インスピレーション任せの作業では時間が読めませんが、「仕事のできる時間」が決まっていると、「その時間内に成果を出す」という意識が持てます。すると、作業のスピードが自然と上がり、社員の健康管理や、自身の睡眠時間の確保など、健康面に役立つことは言うまでもありません。残業も、なるべくないよう努めているそうです。こうした仕組みは、世間一般の企業と大差ないどころか、「働き方改革」よりずっと前から先進的な姿勢で経営されている会社と言えそうです。
「40年間無休連載」を成し遂げた秋本氏は、漫画界でもレジェンドです。その直伝テクニックは、セルフマネジメント術・時間術・コミュニケーション術・発想術・健康術・未来術の6章に分けて公開されています。どの章も、それぞれのテーマについて、たくさんのテクニックが紹介されています。ただ、一冊読み終えると、そのたくさんのテクニックに共通した大事なことが見えてきます。「限りある時間の中で、面白い漫画を提供し続けるために何が必要か」を考えた結果、たくさんのテクニックが生み出されている、ということです。
たとえば、あるページで「スケジュール管理は人任せにせず、自分で管理することが大切だ」という勧めが出てきます。その項目内での理由は、自分で管理したほうが精神衛生上良いから、としか書かれていません。情報化が進んだ世の中、様々な人が一緒に働くために、スケジュール管理専門の人が置かれることはよくあります。特に、毎週締切がやってくる週刊連載では、描く作業に集中するため、スケジュールくらいは他人に任せた方が効率的に思えます。精神衛生も大事だけど、それだけの理由で週刊連載や数誌同時連載を自己管理するのは、なかなか大変そうです。