ノーベル科学賞・吉野彰氏も愛読『ロウソクの科学』が伝える、自然と科学と人間の深い交わり

『ロウソクの化学』が伝えるもの

1本のロウソクに込められたファラデーの科学愛

 これほどまでにロウソクについて考えてみたことがあっただろうか。本書でファラデーの講義に触れると、そう思わされる。恥ずかしながら筆者はロウソクには色々な種類があることすら知らなかった。ステアリンロウソクやパラフィンロウソク、ワックスロウソクなど様々な種類のロウソクは主原料や燃焼の仕方が異なり、製造の過程から炎が燃えるまで、たくさんの化学現象が起きている。

 中でも興味深かったのは、ロウソクの燃料が燃焼の起きている部分に運ばれ、その場所の正しい中心にぴたりと収まるのは「毛管引力(表面張力)」が関係しているということ。こうした化学現象を分かりやすく伝えるため、作中には講義でファラデーが行った実験をイラストで紹介。軽快な語り口と併せて楽しむと、まるで目の前でファラデーが実験を見せてくれているかのように思える。実験は作中にたくさん記されており、読者はそのたびに科学の凄さに感動するのだ。日常生活の中で知らずに体感している科学現象も紹介してくれるため、「あれも科学だったのか!」と衝撃を受けてしまうだろう。

 また、ファラデーは、ロウソクの炎には蒸気の生成と蒸気の燃焼という、明らかに違った種類の働きがあることも実験で証明。そうした証明はあらゆる自然の相互作用が起きてこそなされるため、「科学はあらゆる相互作用によって成り立っている」という彼の持論も証明されているかのように思えた。そして、私たちはロウソクを通して、ファラデーの科学に対する想いにも触れることができる。

飾りロウソクの設計者の場合に見られるような決定的な誤りや失敗は、やってみなければえられないような性質の教訓を、しばしばもたらすのであります。この教訓に導かれて、私たちは自然の探究者になっていくのであります。

 作中に記されているこの言葉には、研究者として人生を捧げてきたファラデーの科学への情熱が込められているように感じられる。また、やってみなければ分からない点や失敗して学ぶという科学の特性は、人生の奥深さにも通ずるものがあるようにも思えた。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事も執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

書籍情報
『ロウソクの科学』
ファラデー 著 三石巌 訳
定価:本体520円+税
KADOKAWA公式サイト:https://www.kadokawa.co.jp/product/201202000088/

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