“炎上仮面”ラファエル、著書『無一文からのドリーム』で明かす半生とその生存戦略

ラファエル『無一文からのドリーム』レビュー

 本書を読みすすめると、ラファエルは「無一文」であったかもしれないが、幼少期からあるものを獲得していた。それはコミュニケーション能力、なかでも男性グループ内、ホモソーシャル内でのコミュニケーション能力が抜群に高いのだ。学生時代はスクールカーストでいうところの「二軍」だったものの、カースト上位の不良グループとも仲がよいこともあり、いじめられることはなかったという。

 そして仲間から「こんな俺たちでも国家公務員になれる」と誘われ自衛隊に入隊。学生時代は成績が悪く、劣等生だったラファエルだが、持ち前の体力とコミュニケーションスキルで厳しい訓練をこなしていく。そこで自身の能力が評価されることの快感を覚えていったのだ。

 ラファエルいわく、自衛隊という場所は「仕事ができる」「体力がある」「笑いが取れる」の3つがあればやっていける場所だという(なお、このレビューを書いている私も、ラファエルと同じく陸上自衛隊に4年ほど籍を置いていたが、まったくそのとおりだと思う)。自衛隊にせよ、飛び込み営業にせよ、ホモソーシャル内でのコミュニケーション強者が力を持つ世界である。自分の武器を生かして、社会をサバイブする。それはYouTuberに転身したあとも変わらない。

 YouTubeで大ブレイクした理由について、ラファエル本人は「ちょうど自分の席があいていた」「時代に勝たせてもらった」と語るが、コミュニケーション能力というのは、いってしまえばコミュニケーション内での「自分の席」を見分ける能力だ。

 低年齢層向けの「やってみた」や、商品紹介動画ブームだった当時のYouTuber界において、日本刀を雑に構えたムキムキの白仮面おじさんが登場したインパクトは大きかったし、その後も金・女・暴力を武器にしてYouTubeのメイン視聴者層ではない30代男性の心をガッツリ掴みスターダムに駆け上がったのも、やはり彼の同性に訴求するコミュニケーション能力があったからこそ可能だったといえる。

 筋肉マッチョ、下品な体育会系キャラのイメージが強いラファエルだが、その仮面の下にはコミュニティを冷静にメタ視し、自身を徹底的に客観視する顔を持っている。浮き沈みの激しいYouTuberの世界で勝ち抜いてきた彼の生存戦略が本書には刻まれているのだ。

■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。8月6日に市川哲史氏との共著「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)を上梓。Twitter

■書籍情報
『無一文からのドリーム』
ラファエル 著
価格:本体1,200円+税
出版社:宝島社

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