現代アニメ論が示す、アニメとガジェットの関係性ーー石岡良治『現代アニメ「超」講義』レビュー
また、これに関連してわたしが本書で興味深く読み、なおかつ本書がもつ独自の魅力だと思うポイントは、著者が示す「アニメとガジェットとの交錯/メディアミックス」という批評的な視点である。たとえば、著者は『プリキュア』や『プリパラ』などのキッズアニメを論じた第4章で、「物語の基礎設定にトイなどのガジェットが深く入り込んでくるところが、日本のアニメにおけるキッズ枠の大きな特徴」(230頁)であり、それらが「トイを手にとって動かすプレイ体験と視聴者を結びつけることで、アニメ映像とその外とをつなぐ結節点ともなって」(233頁)いるのだと指摘している。
著者はすでに『視覚文化「超」講義』で、『ガンダム』シリーズにおけるガジェット(「ガンプラ」)の存在の重要性について指摘していたが、おそらく現代のアニメ論において、こうした映像とガジェットとの関係の重要性を総体的に考えたのは、著者の仕事に独自のものである。あるいは著者は、こうした映像をめぐる視聴者とガジェット(モノ)とのかかわりを、作品表現自体のなかにも鋭く見いだしていく。たとえば、『ぱにぽにだっしゅ!』に触れながら、「シャフト作品における物と情報のあり方は、人間以外の様々な事物が「群像劇」のエージェントとなる状況を作り上げてい」(98頁)ると語る。この著者の描くイメージもまた、アニメが「映像単体」で存在し、消費されるのとは別に、「様々な事物」=ガジェットがハイブリッドに介入してきながらわたしたちによって受容されているアニメ文化の実態を寓意的に照射するものだろう。
いずれにせよ、こうした「ガジェット」や「ホビー」に着目する著者のアニメ論は、『艦隊これくしょん-艦これ-』『刀剣乱舞』から「Pokémon GO」にいたる、ゲームと紐づいた「ガジェットが作品の魅力の大きな部分をなすコンテンツ」(217頁)の昨今の盛りあがりを考えるうえでもきわめて重要な示唆を与えてくれる。あるいはこの問題は、たとえばメディア研究者・松井広志の『模型のメディア論――時空間を媒介する「モノ」』(青弓社、2017年)などの他ジャンルの書物とも深く共振するだろう。さらには、著者自身が短く示唆するように(98頁)、いわゆる「オブジェクトの哲学」という近年、国内でも注目を浴びる思想動向とも響きあうテーマでもある。
以上のように、ここで簡単に示した論点以外にも、本書は、じつに広範な分野の関心に接続できる広がりをもった空前の現代アニメ論である。著者の自在な導きによって、ぜひ「アニメという宇宙」に思い切り飛びこんでもらいたい。
■渡邉大輔
批評家・映画史研究者。1982年生まれ。現在、跡見学園女子大学文学部専任講師。映画史研究の傍ら、映画から純文学、本格ミステリ、情報社会論まで幅広く論じる。著作に『イメージの進行形』(人文書院、2012年)など。Twitter
■書籍情報
『現代アニメ「超」講義』
石岡良治 著
発売中
価格:本体2,800円+税
頁数:312頁
発売/発行:PLANETS/第二次惑星開発委員会