斉藤和義、Wセットリストで体現した繊細さと豪快さ 『カモシカとオオカミ』キャリア30年を超えてもなお溢れる挑戦心

斉藤和義『カモシカとオオカミ』を振り返る

“野性”的なエネルギーを爆発させた『オオカミ』

 『カモシカ』の夜が内省的な静けさを湛えていたとすれば、『オオカミ』はその反対側のエネルギーを爆発させるステージだった。幕開けを告げるのはギターの鋭いカッティングとタイトなドラム。のどかな草木を模したセットから一転、岩山を思わせる無骨なステージに変わり、観客は否応なく“野性”の空気に引き込まれる。斉藤和義は4人編成のバンドとともに、冒頭から全開のロックンロール「Hello! Everybody!」を叩きつけた。

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

 「収録となると、こっちもちょっと固くなるしお客さんもなんか固くなりがちですけど、基本カメラは僕らの方を向いてますからね。皆さんのほう向いてないですから、いつも通りに盛り上がって」と冗談交じりにオーディエンスの緊張をほぐす。「といいつつ、あんまり盛り上がらない曲をやります」とオチをつけてからの、「ぼくらのルール」と「透明の地図」。アコースティックギターをかき鳴らしながら伸びやかな歌声を響かせる、そのMCとのギャップも斉藤の魅力の一つだ。

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

 「ひねくれた性格なもので、普段は自分が住んでいる東京をけちょんけちょんに貶してばかりなんですけど、震災があった後に『東京のいいところをギュッと詰め込んだ曲を作ろう』と思って生まれた曲です」そう告げて歌った「メトロに乗って」は特に心打たれた。〈明日が来るなんて 誰もわからないんだ〉という歌詞は、コロナ禍を経た今また新たな響きを持って心に染みる。〈後楽園でボクシングの4回戦 スゴイ試合だったね 何回も立ち上がる 名もなきあの男〉と締めくくる歌詞にも、復興に向け頑張る人々に対して照れ屋な斉藤らしい「ささやかなエール」が込められているようだ。

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

 中盤にはピアノを弾きながら歌う「月の向こう側」や、『カモシカ』でも使用していた白くペイントしたYAMAHA SGを用いての「天使の遺言」で一瞬トーンを落とし、そして再び「社会生活不適合者」や「BUN BUN DAN DAN」でギアを上げていく。ジャズマスターを激しく揺らす真壁のアームプレイ、グリッサンドを効かせた隅倉のベース、疾走感あふれる河村のドラム。言葉のひとつひとつに社会への眼差しを込めつつ、音はとことん肉体的で、客席から拳が自然に突き上がっていた。

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

 極めつけは、アンコールで披露した「歩いて帰ろう」だ。黒いレスポールをかき鳴らしながら、観客と声を合わせてシンガロング。途中で斉藤が河村とパートチェンジしてドラムを叩くなど、遊ぶように演奏する姿に、会場全体が笑顔で包まれる。まるでリハーサルスタジオを覗き見しているような、自由で解き放たれた空気。最後には観客全員が合唱し、ロックンロールの原点に立ち返るかのような幸福感で締めくくられた。

『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』

 『カモシカ』と『オオカミ』。同じ4人編成で挑んだ2つの夜は、静と動、繊細さと豪快さという真逆の表情を見せながら、根底には“歌を届けたい”という斉藤和義の変わらぬ姿勢があった。WOWOWで両方を続けて観れば、彼がいかに幅広く、そして深く音楽を鳴らすアーティストであるかを改めて実感できるだろう。キャリア30年を経てもなお、彼が「立ち止まらない」理由が、そこにははっきりと刻まれている。

■番組情報
『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』
カモシカ
10月12日(日)午後7:30~
オオカミ
10月12日(日)午後9:15~

WOWOWライブで放送・WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~2週間のアーカイブ配信あり

斉藤和義として初の試みでもある異なる2種類のセットリストを演奏するという“ダブルセットリスト”ツアーから、相模女子大学グリーンホール公演をお届け。
「カモシカ」「オオカミ」どちらも放送・配信!

放送・配信楽曲も決定!

<「カモシカ」放送・配信楽曲リスト>
俺たちのロックンロール
攻めていこーぜ!
Endless
ハミングバード
泣くなグローリームーン
真夜中のプール
やわらかな日
無意識と意識の間で
やさしくなりたい
ウナナナ
明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ
歌うたいのバラッド
HAPPY
ずっと好きだった

<「オオカミ」放送・配信楽曲リスト>
Hello! Everybody!
Stick to fun! Tonight!
ワンダーランド
ぼくらのルール
透明の地図
メトロに乗って
月の向こう側
天使の遺言
Small Stone
オモチャの国
社会生活不適合者
BUN BUN DAN DAN

月光
歩いて帰ろう

収録日:2025年7月12日・13日
収録場所:神奈川 相模女子大学グリーンホール

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