斉藤和義が「泣くなグローリームーン」で紡ぐ希望の詩 『ザ・トラベルナース』と響き合う楽曲を紐解く
昨年デビュー30周年を迎えた斉藤和義が、10月17日より放送開始となったテレビ朝日系木曜ドラマ『ザ・トラベルナース』の主題歌「泣くなグローリームーン」を担当。初回放送の翌日となる18日に配信リリースされた。
『ザ・トラベルナース』は、岡田将生と中井貴一がダブル主演を務める医療ヒューマンドラマの続編である。医師の指示で医療行為を行うことができるNP(Nurse Practitioner)の資格を持つフリーランスの看護師・那須田歩(岡田将生)が、かのフローレンス・ナイチンゲールを尊敬し「看護師は人を見て人を治す」という持論を持つ謎のスーパーナース、九鬼静(中井貴一)と出会い、ときに衝突しときに助け合いながら成長していくストーリーだ。
2022年に放送されたシーズン1は、マルファン症候群による大動脈弁閉鎖不全で心不全となった九鬼が、世界的な名医ドクター・シェルプによる手術を受けるため歩と共にニューヨークへ旅立つシーンで終わる。その過程で実は九鬼が、貧しい医療従事者を支援するフローレンス財団の理事長であり、幼くして母を病気で亡くした歩のことを陰ながら支え続けてきたことも明かされており、今回の「シーズン2」ではそんな2人の関係が西東京の総合病院を舞台にどう描かれるのか、期待が高まる。
本稿を執筆している現在(10月20日)、ドラマは初回の放送が終わったばかり。シーズン1からおよそ2年が過ぎ「働き方改革」はさらに進み、労働時間の制限などにより慢性的な人手不足となった医療現場や、そこで働く医療従事者たちの葛藤や苦悩を初っ端からリアルに描いていたのが印象的だった。
人命よりもコンプライアンスを重んじる病院の方針に対し、真っ直ぐにぶつかっていく歩。一方、ときには“嘘”も交えながら、しなやかかつ狡猾に渡り合っていく九鬼。そんな2人のアプローチの違いを際立たせつつ、物事のグラデーションを排除してなにかと白黒つけようとする現代社会に、ドラマとして一石を投じているのが頼もしい。「医療現場で日々闘う《名もなきナースたち》がさまざまな常識を覆しながら、患者とその家族、周囲の医療従事者をも救っていく」という、前作に流れていたテーマは今作にもしっかりと受け継がれている。
シーズン1の主題歌は、DISH//による書き下ろし曲「五明後日」。作詞を北村匠海、作曲を山崎まさよしとDISH//の共作で作り上げたこの楽曲は、“花”を“命”に喩えてその重さや儚さを綴る、コロナ禍で制作されたドラマの主題歌であるが故の切なくも美しいバラードだった。そして今回、斉藤和義が書き下ろしたシーズン2の主題歌「泣くなグローリームーン」は、それに比べるとテンションコードを含む軽やかなアコギのバッキングから始まる、切なさの中にも清々しさすら感じさせる。
「いろいろな悩みごとだったり、悔しい思いをしたりしたことは自分自身でもちょくちょくあるので、そういう気持ちが聴いていただいた方にも届くといいな、と思いながら作りました」(※1)
斉藤本人がそうコメントしているように、この曲で彼は、見上げればいつも夜空に輝く月に自分自身の理想の姿や困難の先にある希望を投影し、〈僕だけの月よ ついて来てくれないか?〉〈ねぇグローリームーン 仕舞い込んだ夢の色 鍵を開ければ今でも/雲の切れ間から 笑うグローリームーン〉と歌う。それは、喩えば仕事における挫折や、人間関係のすれ違いなどに直面しても、夜空を見上げればいつも夜空に輝いている月のように、自分だけの希望や夢がまだそこにあることを私たちに思い出させてくれるメッセージとしても捉えることができる。
主演の岡田将生もこの曲について、「とても素敵なメロディーラインで軽やかですが、歌詞がとても素敵で感動しました。どこか自分が演じる歩の背中を押してくれている印象がありました。(中略)このドラマにも寄り添ってくれていますし、そしてこのドラマで描きたい『いつどんな時でも患者さんに寄り添う』というテーマと一致しています。この曲がきっとドラマを最後に包んでくれます」(※1)とコメントを寄せた。