竹内アンナ、原点の音楽で鮮やかに更新する弾き語りの固定観念 ツアー『atELIER -アトリエ-』を振り返る

竹内アンナ、ツアー『atELIER』レポ

 竹内アンナが、2月23日に東京・自由学園明日館 講堂で『弾き語り TOUR 2026 atELIER -アトリエ-』を開催した。

 2月20日の名古屋・大須演芸場、2月21日の京都・京都文化博物館別館ホールを巡り、ツアーの最後に選ばれたのが、自由学園明日館 講堂の昼夜2公演だった。池袋の住宅街を歩いていると、急に空気が変わるように建物が姿を見せる。古い建築ならではの落ち着きがあり、外の喧騒が自然と遠のいていく。なかに入ると木の質感が目にも耳にもやさしく、音がきつく跳ね返ることなくふわっと広がっていく感覚で、弾き語りをじっくりと堪能するには、これ以上ない雰囲気を備えた会場だった。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 ステージに置かれていたのは、竹内が「部屋に遊びにきてもらっているイメージ」と語ったセットだ。彼女が普段音楽を作っている場所をそのまま持ち込むように、実際に部屋から運んできたものが並んでいた。格式ある講堂が、少しだけ日常の空気をまとった瞬間。弾き語りは“静かに聴くもの”というより、目の前で演奏してくれているように感じられる時間へ変わっていった。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 この日は「サヨナラ」でライブは始まった。竹内がアコギを手に取った瞬間、客席から拍手が起きる。言葉で合図を出さなくても、手元の動きひとつで空気が切り替わる。続く「真昼のランデヴー」では、「歌とギターとこの空間をいっぱい楽しんでください」と呼びかけ、会場の視線と呼吸をすっと一点に集めていく。「ALRIGHT」もこの日の編成に合わせて鳴らされ、原曲の推進力は弦の揺れと歌の息遣いとして、より近くに感じられた。音数が絞られるほど、歌い方や間の取り方の積み重ねがくっきりと浮かび、弾き語りの強さとして伝わってくる。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 「I Love Youの言葉より」「I My Me Myself」と続く流れで、竹内はエレキギターへ持ち替える。「弾き語りはアコギ」という固定観念を、音色の切り替えひとつで更新していく手つきが鮮やかだった。そこからアイナ・ジ・エンドの「革命道中」のカバーへ。竹内は「『弾き語りでやったらどんなふうになるかな』と思ってチョイスしてみました」と語っていたが、原曲で幾重にも重ねられていたサウンドの迫力が、弾き語りでは違ったニュアンスで聞こえてきた。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 中盤で披露された、ゲストボーカルなどで客演参加した楽曲のセルフカバーも、このツアーのコンセプトを支える重要な場面だった。MCでは、「もうちょっと自分の歌を好きになってあげてもいいんじゃないかなって、この数年で思えるようになった」と語り、ライブに足を運び「声が好き」「曲が好き」と伝えてくれるファンの存在が、自身を肯定する力になっていると明かす。そんな言葉を経て届けられた「水槽の中の脳」(MIMiNARI)、「MAKE LOVE」(He & She)、「Cocktail」(A.B.C-Z)は、提供曲のセルフカバーという枠を超え、歌い手としても作り手としても歩んできた時間を自分自身の歌として引き受け直す瞬間のように思えた。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 そして、「ICE CREAM.」で軽やかに弾みをつけ、そのまま「泡沫SUMMER」へ。夏の匂いを含んだメロディを、バンドに頼らず、ギターのリズムと声の抜けで聴かせていく。音が絞られるぶん、歌詞がまっすぐ入ってくるだけではなく、声の揺れや息遣いも隠れない。バンドで聴き慣れた曲が、ここでは竹内の声と言葉が先に立って聴こえてくる。12弦ギターを抱えて届けた「たぶん、きっと、ぜったい」は、和音が重なり合い、倍音が講堂の奥まで伸びていく。ひとつのストロークが空間いっぱい広がっていき、その余韻にしばらく浸っていたいくらいだった。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 次に歌われたのは「20 -TWENTY-」。ファンクやHIPHOPのニュアンスを取り込んだポップサウンドと、スラップを効かせたテクニカルなプレイが印象に残る曲だが、弾き語りではギターの一打ごとのノリが前に出て、リズムのうねりがより明確になる。そこから続く「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」では、楽曲がもともと備えているジャジーな空気を、ギターのコードワークだけで滲ませていく。編成を削ぎ落としたことで、アレンジの妙ではなく、歌そのものの説得力で聴かせる時間になっていた。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 ツアーで初披露となった新曲「adabana midnight」を経て披露された「Free! Free! Free!」では、ファンがいつも通り竹内の声に応えて手を挙げる場面が生まれ、会場の熱量がグッと上がった感覚があった。「今年、令和8年8月8日は8周年で末広がり。より精力的に曲を作ったり、ライブをしていきたいなと思っています。またみんなにたくさん会える機会を作りたいと思っているので、ぜひまた気軽に会いにきてください」と語りかける竹内。最後に「ペチュニアの花」を歌い、この日のステージを締めくくった。

竹内アンナ(撮影=ハヤシマコ/京都公演より)

 鳴り止まない拍手に応えて竹内が再びステージへ戻ると、アンコールは「TOKYO NITE」「RIDE ON WEEKEND」と、終盤にふさわしい軽やかな2曲が届けられ、最後はあたたかな大きな拍手に包まれてこの夜は幕を下ろした。

 MCで竹内は、アトリエとは「原点に帰ってこられる場所」だと語っていたが、この日の夜はまさにその言葉どおりの空間になっていた。そこにあったのは、飾らない歌とギター、そして客席との近い距離感だ。演奏が始まれば会場はすっと息をひそめ、歌い終えるとすぐ拍手が返る。その反応の往復が途切れずに続き、曲と曲のあいだの静寂まで、この場所だけの時間として整っていった。聴く側も含めて、同じ空間にいること自体が意味を持つ夜だった。

『Mステ』が新たにチャレンジした“オープニングアクト”――竹内アンナ、話題を呼んだ確かなスキルと歌声

6月20日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に「SPオープニングアクト」としてシンガーソングライターの竹内アンナ…

竹内アンナが語る、『TICKETS』で“旅”をテーマにした理由 『アイドリッシュセブン』も支えになったコロナ禍での制作活動

竹内アンナから、2年ぶり2枚目のフルアルバム『TICKETS』が届けられた。前作『MATOUSIC』リリース直後からコロナ禍に入…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる