斉藤和義、Wセットリストで体現した繊細さと豪快さ 『カモシカとオオカミ』キャリア30年を超えてもなお溢れる挑戦心

キャリア30年を超えてもなお、斉藤和義は新しい試みに挑み続けている。最新ツアー『斉藤和義 LIVE TOUR 2025 “DOUBLE SETLIST” ~カモシカとオオカミ~』は、その姿勢を象徴する企画といえるだろう。タイトルの通り、『カモシカ』と『オオカミ』という2種類の異なるセットリストを用意し公演ごとにどちらかを披露する。300曲以上あるレパートリーから選りすぐり、二つの側面を見せることでオーディエンスに全く違う景色を見せるチャレンジだ。

今回WOWOWは、神奈川県・相模女子大学グリーンホールで7月12日、13日と開催された『カモシカ』『オオカミ』両公演を、10月12日 午後7時30分から連続で放送・配信する。まずは草木や低木を思わせるボタニカルなセットが組まれた『カモシカ』から。開演前のBGMが流れる中、暗転したステージに緑のシャツを羽織った斉藤、真壁陽平(Gt)、隅倉弘至(Ba)、そして河村吉宏(Dr)の4人が姿を現す。いわゆる「同期モノ」は極力使わず、たった4人だけの生のアンサンブルが全編にわたって展開された。
斉藤和義の“繊細さ”を堪能できる『カモシカ』

アコースティックギターを斉藤がかき鳴らし、まずはミドルバラード「俺たちのロックンロール」。音数をあえて削ぎ落とした剥き出しのサウンドスケープが、ハスキーな中にも少年のようなピュアネスを残す斉藤の声を際立たせる。「4人編成って、それぞれのフレーズが聴きやすくないですか? あ、キーボードが要らないってわけじゃないですよ(笑)。今回はこのスカスカの音でやってみようと。やりながら、『4人バンド編成ってこんな感じだったよなあ』と思ったりしました」と、今回のアレンジのコンセプトを斉藤自身が語る。

ライブの中盤に演奏された「やわらかな日」は、まさに『カモシカ』公演を象徴する1曲だろう。レコーディングでは20声近いコーラスが重なる楽曲を、ここでは斉藤いわく「3人の(ザ)ビーチ・ボーイズ」たちが全力で再現する。その透き通るように美しいハーモニーに客席からどよめきが起こった。そして、「朝に新聞を読みながら思いついた曲」という同曲は、新聞記事をきっかけに始まるパートナーとの他愛のない口喧嘩、それこそが幸せだと静かに訴える、シャイな斉藤らしい感動的なラブソングだ。

また、斉藤が自らピアノを弾きながら「無意識と意識の間で」を歌い始めると、会場全体がまるで夢の中に引き込まれるような幻想的な雰囲気に包まれた。そこにバンドメンバーたちによるアンビエント的なサウンドアプローチが施され、光と影が交錯するように楽曲が広がっていく。

ライブ後半に披露された「やさしくなりたい」は、ディレイを効かせたリードギターのアルペジオにソリッドなカッティング、直線的なベースラインと躍動するドラムが組んず解れつのアンサンブルで、一気に加速していく。観客は体を揺らし、ハンドクラップや歓声でその演奏に応えている。終盤、「ウナナナ」ではブルースハープを吹きながら観客を煽る斉藤。「イエイ!」「ウナーナーナー!」のコール&レスポンスで会場全体を解き放つ。抑制された前半からの反動で、感情が一気に爆発するカタルシス。その振り幅が『カモシカ』編の醍醐味でもあった。






















