『京都大作戦2025』、走り続けるロックバンドの覚悟が輝いた2日間 10-FEETがいるから体感できた“人生の真髄”

『京都大作戦2025』徹底総括レポ

BRAHMAN、“大切な人”と過ごしてきた時間を認め合う眼差し

 皆勤賞のバンドがいる一方で、久しぶりにレアな出演を果たしたベテランもいる。6年ぶり、3度目の出演となるBRAHMANだ。「鼎の問」から静かな熱情を持ってスタートし、「賽の河原」「SEE OFF」「DEEP」など衝動と技巧が入り乱れる名ナンバーを畳みかけ、最新作『viraha』のオープニングナンバー「順風満帆」を全くもって順風満帆ではない世の中にこれでもかと叩きつける。突っ走ってきたところで、「今夜」に合わせてTOSHI-LOW(Vo)が呼び込んだのは、まさしく盟友=細美武士(Vo/Gt/ELLEGARDEN・the HIATUS・MONOEYES)。「今夜は飲める?」と聞いたTOSHI-LOWに「飲めるよ」と答える細美、「やった」と嬉しそうなTOSHI-LOW。互いに目を合わせ、手を伸ばしながら〈出来るなら そのまま 本当に笑ってしまおう〉と語りかけ、〈上を向いて 歩いて来れたなら/たぶん俺ら 出逢ってないよ〉とポツリと溢す。「15年前だったらこんなに仲良くなるって思わなかったでしょ」と言って細美を送り出したTOSHI-LOWだが、そうやって時に心を許し合って紡いできた歩みが、こんな素敵なステージを形作っている。

『京都大作戦2025』ライブ写真
BRAHMAN

『京都大作戦2025』ライブ写真

 「『京都大作戦』、俺はずっと出ないって拒否してきて……」ーーTOSHI-LOWが吶々と語り出したのは、コロナ禍の2年目、ひょんなことからTAKUMAと2人で真夜中の東京をドライブして、互いに上京して最初に住んだアパートなどを見に行き、それぞれの時間の中にあった“違う青春”をどうして認められなかったんだって後悔したというエピソード。

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 そして、TAKUMAとのLINEを見返していると、かつて『ARABAKI ROCK FEST.』の打ち上げが開かれた際、TAKUMAに来てほしいと呼んでいる“ある人物”のメッセージを、代わりにTOSHI-LOWが届けたやり取りが残っていたのだとか。

「残っていたんだよ……チバユウスケからのメッセージがよ。今日は誰と飲んでるんだろうな?」

 空を見上げてそう呟いた後、最後に演奏されたのは「charon」。チバに捧げられた、『viraha』屈指のエモーショナルな1曲だ。嘘みたいな本当の話だが、TOSHI-LOWが〈charon もう一度〉とラストパートを叫んだ瞬間、太陽が丘に“軽く風が吹いた”ような感じがした。気のせいかもしれない。けど、そうだと信じたい。チバ、あなたの元に届いただろうか。

ELLEGARDEN、苦難を乗り越えたエバーグリーンなエネルギー

 徐々に気温が下がり、心地いい風も吹き始めた2日目の夕暮れ時。源氏ノ舞台に現れたのはELLEGARDEN。なんと17年ぶりの出演だ。記念すべき初開催のラインナップに名を連ねていた彼らは『京都大作戦』の歴史にとってとても大切なバンドである。細美が「会いたかったぞ京都!」と叫ぶと、4人は挨拶代わりの「Salamander」をかき鳴らし、太陽が丘に一気に高揚をもたらす。続く「チーズケーキ・ファクトリー」や「Mountain Top」など、大らかなメロディで聴かせる最新作『The End of Yesterday』収録曲が過去曲と変わらない輝きを放っていることにも改めて驚かされた。細美が「あの頃と違う強くなった姿をお見せしにきました」と言って意気込むと、「Strawberry Margarita」「Fire Cracker」でライブのギアをグッと高めていく。そして、「風の日」「ジターバグ」「Make A Wish」が怒涛のように奏でられる頃には、オーディエンスの大合唱も際限なく空へと広がっていった。なんと美しい光景だろう。

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ELLEGARDEN

 活動休止・再結成も含め、この17年の間に一筋縄ではいかないことをたくさん経験してきたELLEGARDEN。昨年秋には細美が網膜剥離を発症し、アジアツアーが延期されるアクシデントもあった。「歌うことの意味、自分が生きていることの意味も、まるで変わっちゃいました」(※3)とも語っていた細美。だからこそ、「このクソ暑い日に人と違うことしてるんだろ。そんなお前らには愛の意味とか、勇気の意味とか、わかるかもしれねえだろ」と訴えかけるこの日の細美の歌には、形容し難いほどのエネルギーが宿っていたように思う。

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 今だけなんだという全身全霊の生命力と、そっと手を差し伸べるような包容力。〈僕だって いつも ピエロみたいに 笑えるわけじゃないから〉(「風の日」)、〈早く着くことが全てと僕には思えなかった〉(「ジターバグ」)、〈That you are not the only one/And someone's there next to you holding your hand〉(「Make A Wish」)といった名曲たちの歌詞にも、年月を経たからこその新しい意味が宿っている気がするから不思議だ。それもまた、バンドがストーリーを重ねてきた証だろう。オルタナティブな感性を持ちつつ、メロディの中でオーディエンスと感情を重ね合いながら、その情景をどこまでも広げていくーーELLEGARDENのエバーグリーンな魅力は、ここにきて輝きと深みをさらに増してきている。ラスト1曲「Supernova」が「この瞬間が終わってほしくない」という全員の気持ちを代弁しているように聴こえたのは筆者だけではないはず。演奏が終わる頃には、感動のあまり涙を流す人の姿も見受けられた。ELLEGARDENと、彼らの音楽を愛する人たちの物語はまだまだ続いていきそうだーーそんな確信を得られた素晴らしいステージだった。

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10-FEETはロックで人生そのものを掻き鳴らす

 バンドの数だけストーリーがある。近づいたり、遠ざかったり。出会ったり、手を離したり。きっとメンバー同士にもそういう瞬間があるのだろう。そこに手っ取り早い正解は用意されない。むしろ、人と人との繋がりを介して、歩んできた道のりを正解にしていこうと泥臭くもがく姿こそがロックバンドではなかろうか。一見、非効率的に思われるかもしれない。だが、それは人生そのものである。たとえ解決できずとも、それでも誰かと生きていくのだという信念。そして誰も1人では生きていけないという真実。ここに書き連ねた名演を通して、改めてそのことを実感したからTAKUMAは冒頭のようなMCをしたのだと思う。

『京都大作戦2025』ライブ写真
10-FEET

 初日のライブで、TAKUMAが「人は1人で生まれて1人で死ぬ。努力は報われないかもしれへん。でも、今日だけはすっとぼけて行きたいのよ」と叫んでから「VIBES BY VIBES」を披露した10-FEET。1人ではどうしようもないかもしれない。そんな苦悩がミクスチャーとなって爆発を生み出し、根底にある優しさで多くの人の心と共鳴し合っていく。「VIBES BY VIBES」はまさにそういう曲だ。

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 その初日は、「JUNGLES」や「super stomper」(with Tokyo Tanaka & Jean-Ken Johnny/MAN WITH A MISSION)といったミクスチャーナンバーから始まり、「太陽4号」を経て、「その向こうへ」(with N∀OKI & NOBUYA/ROTTENGRAFFTY)などストレートなメッセージを重ねていく流れに。より肉体的に躍動するようになったKOUICHIのビートと、分厚い響きを纏ったNAOKIのベースラインが、10-FEETの3ピースバンドとしての“骨太さ”を際立たせる。『10-FEET "helm'N bass" ONE-MAN TOUR 2024-2025』でもリズム主体の演奏にさらなる進化を感じたが(※4)、そんなアンサンブルは太陽が丘のスケールでも健在のようだ。

『京都大作戦2025』ライブ写真

『京都大作戦2025』ライブ写真

 一方、「その向こうへ」「Fin」から始まり、「1sec.」「ハローフィクサー」と徐々にミクスチャーを重ねていったところで、感動的な「アンテナラスト」が投下され、「第ゼロ感」では大阪籠球会も招かれた2日目の10-FEET。仲間とともに音を奏でることは喜びであると同時に、これまでの歩みが間違いではなかったと思わせてくれる確信の瞬間でもあるのだろう。その点ではやはり、KjとJESSEを呼び込んだ2日目の「RIVER」は今年の『大作戦』のエンドロールに相応しい1曲だった。Dragon Ash、The BONEZ、そして10-FEETが紡いできたストーリー。そこに共鳴する多くのオーディエンスがスマホのライトをかざし、孤独でも奮い立たせて生きていこうとする「RIVER」の歌詞で歌声を重ね、太陽が丘を美しい光景で満たした。アンコールは「CHERRY BLOSSOM」「goes on」「back to the sunset」。これ以上ない大団円の下、『京都大作戦2025』は幕を下ろした。

『京都大作戦2025』ライブ写真

『京都大作戦2025』ライブ写真

 繰り返しになるが、バンドの数だけストーリーがある。様々な事情で続けられなくなったバンドもいれば、同じメンバーで音を出すことが二度と叶わなくなってしまったバンドもいるし、苦難を乗り越えてもう一度走り出したバンドもいる。『京都大作戦』はその歴史をずっと見続けてきたフェスだ。そして、10-FEETは25年以上変わらないメンバーで、ずっと“あの10-FEETのまま”そこにい続けてくれている。すごいことだ。そういうバンドだからこそ、歌える歌、鳴らせる音、やれるフェスがあり、『京都大作戦』が憧れでありホームだと感じるバンドが多いのも、ともに歩んでくれる10-FEETがそこにいてくれるから。もっともっと10-FEETと一緒に幸せになりたい、カッコよくなりたい、生きていきたいーー純粋にそう思わせてくれる、“最高”を更新した『京都大作戦』だった。

※1:https://www.jungle.ne.jp/web_post/takuma10-feet-n%E2%88%80okirottengraffty/
※2:https://www.jungle.ne.jp/sp_post/205-rottengraffty/
※3:https://realsound.jp/2025/05/post-2011841.html
※4:https://realsound.jp/2025/05/post-2031054.html

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