『京都大作戦2024』はミクスチャーロック史に刻まれる伝説に 10-FEETの“願い”を信じて泣き笑った2日間
不寛容な時代にこそロックバンドがライブで貫く信念
ロックフェスは数多くあれど、やはり『京都大作戦』は特別だ。この場所でしか見られない景色、得られない感動があることを、いつも以上に強く実感できる今年の2日間だった。
「第ゼロ感」が国民的なヒットアンセムとなり、昨年末には『第74回NHK紅白歌合戦』にも出場した10-FEET。だが、彼らが音楽と向き合う姿勢は驚くほどに変わらない……というより、さらに真っすぐ研ぎ澄まされていると言っていいかもしれない。『京都大作戦』に1日で来場する約2万人、一人ひとりと音楽で手を取り合い、支え合い、誰もが自分らしく楽しめる場所を全員で作っていくことこそ、10-FEETのライブの揺るぎない真髄。そして、肩肘張らずにそんな居場所を作れるバンドは、やはり10-FEETを差し置いて他にいない。誰かを冷ややかに罵ったり、杓子定規的な基準で人を押さえ込んでしまったり、コミュニケーションの不和からあらゆる争いに発展したり……そういったことの絶えない世の中でも、『京都大作戦』に行けば、人間関係の本来的な“温かさ”を思い出せるし、時には葛藤や苦しさも分け合うことで喜びが生まれることを実感できる。
7月6日〜7日にかけて、「京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ」で開催された『京都大作戦2024〜翔んで騒いで万々祭゛〜』。初日トリの10-FEETのステージで、TAKUMA(Vo/Gt)はSNS上に蔓延る誹謗中傷や、ライブで起きた揉め事が後々ネットで炎上に繋がってしまうことなどを取り上げて、「もうやめようや」と訴えた。そして、ロックフェスだからこそ現場で起きたことは現場で解決していけるはずだし、そうやって互いを理解し合うポジティブな波動をこの場から伝播させていきたいとも語った。SNS上の会話だけではこぼれ落ちてしまうものがあること、対面しているからこそ伝わる繊細なニュアンスや温度感が人と人の繋がりを強くすること。そんな想いを、TAKUMAはロックを通して投げかけていく。
ジャンルを混ぜ込む“ミクスチャー度”が濃くなればなるほどピュアな感情が剥き出しになるのが10-FEETであることを思えば、「super stomper」「ハローフィクサー」「1sec.」などを立て続けた初日のセットリストは、TAKUMAの願いそのものだったと言うこともできるだろう。しかも、開催直前にリリースされた『helm'N bass』がそのモードを強く体現したシングルだったこともあり、「helm'N bass」や「gg燦然」の演奏には特別な感慨を抱かざるを得なかった。極めつけは、知らない人同士で一斉にハイタッチする「goes on」。“みんなで考え、みんなでかっこよくなる”というTAKUMAの信念は、一人ひとりが今この場にいること自体を思い切り肯定してみせた。
そんな10-FEETに強く共振していたのが、両日のトリ前を務めた2組。「全員優勝」を掲げ、〈君はいたほうがいいよ〉(「Future is Yours」)や〈信じてんぜ君を〉〈あなたが花束〉(「花束」)と叫び、ロックンロールで“あなた”の存在を真っ向から祝福するサンボマスターは、不安や悲しみで折れそうな心に光を灯した。また、「10-FEETありがとうじゃなくて、『大作戦』ありがとうじゃなくて、あなたに楽しんでほしいという気持ちが先にある」と語ったSUPER BEAVERは、2万人に対してではなく、“一人ひとり”に歌いかけ、「あなたが主役」なんだと訴えかけ続けた。人と人の繋がりを根っこから見つめることで本当の美しさや愛が生まれると信じる2組。10-FEETの想いともオーバーラップすることで、今年の『京都大作戦』の熱量を大きく高めてみせた。
「学校、家事育児、仕事、生きるのを頑張ってる人」へ向けて「優しさに溢れた世界で」を歌いかけ、日々の葛藤を優しく包み込んだSaucy Dog。「嫌なことがあったヤツもたくさんいると思うねん。俺たちがパンクロックで救ってやる」と言ってレゲエ、スカ、メタルを織り交ぜた独自のパンクを矢継ぎ早にかき鳴らしたHEY-SMITH。10-FEETと『京都大作戦』への愛を語った後に、「俺らなりの不器用な愛の返し方」として「純恋歌」を響かせた湘南乃風。「Paradise Has No Border」の精神で10-FEETの3人とも一体になり、「風に戦ぐブルーズ feat.TAKUMA」で無力さや孤独を生きるエネルギーに変えてみせた東京スカパラダイスオーケストラ。そして、「フェスが盛り上がろうと、盛り上がらなかろうと、どっちだっていい。何かを受け取ってくれたらと思って」と言ってパンクロック道の真髄「Support Your Local」を鳴らし、疑心が飛び交う現代に、もう一度信じ合う可能性を問いかけてみせたKen Yokoyama。それぞれのジャンルもバラバラだが、どこか通ずる願いを持ってステージに立ち、オーディエンスと想いを交歓していくライブの数々には胸を打たれた。
若手/ベテランを問わず、10-FEETが「今見てほしい」とアツいエールを送るアーティストがひしめく牛若ノ舞台を見ても、初日のトップバッター Makiから、飛ぶ鳥を落とす勢いがパフォーマンス(&ダイバーの数)にも表れていたサバシスター、夕暮れの空に伸びやかな歌声が美しく広がったSIX LOUNGE、〈あなたにまだ恋をしているのさ〉(「ダイナマイトラヴソング」)のコール&レスポンスで怒涛の一体感を生み出したプッシュプルポット、「AREA PD」で牛若ノ舞台を己のフィールドに変えてみせたPaledusk.……など、どこまでも真っすぐなライブのオンパレード。今年、源氏ノ舞台で熱演したSaucy Dog、FOMARE、ENTHらも1〜2年前は牛若ノ舞台のバンドだったことを思うと、牛若でフェイバリットなバンドに出会っておくことで、数年後の『京都大作戦』がさらに楽しくなるとも言えそうだ。