UAが育んだ30年の土壌と夏至の夜に咲いた笑顔の花々 幸福感に満ち溢れたデビュー30周年ライブ

『UA 30th Anniversary Live』レポ

 どこまでも自由で、心が開放される音楽。それを思いきり楽しみ、自分にとって大切なものを愛しながら、幸せに生きること。時には悲しいことやしんどいこと、つい目をそむけたくなる現実に直面もするけれど、それでも前を向いて、明るく生きていかなきゃ。6月21日、夏至の日の夜に日比谷公園音楽堂で聴いたUAの歌からは、そんなポジティブな波動を受け取った。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

「お待たせ! 三十路(みそじ)のうー子よ!」

 うー子ことUAは赤いワンピースに、ひらひらの羽根がたくさんくっ付いた衣裳に身を包んでいた。三十路という言い方をしているのは、今夜は彼女のデビュー30周年を祝うコンサートだからである。オープニングを飾る「HORIZON」は、30年前の今日リリースされたデビュー曲だ。

 続けざまに「お茶」「微熱」という、2022年のEP『Are U Romantic?』からの曲が演奏される。この日もシンセサイザーを奏でている荒木正比呂がサウンドプロデュースで関わるようになった時期の楽曲だが、今夜のアレンジは、先ほどの「HORIZON」も含めてシティポップの感覚を交えた、普遍性の高いものになっていた。このように、UAにおいては過去の楽曲を今どんなふうに再解釈してパフォーマンスするかがポイントのひとつになっている。特にこのようなアニバーサリー公演では旧曲の割合が多くなるぶん、いっそう注目すべき点になる。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

 そのポイントが、次の局面では熱量を増した演奏となって提示された。「リズム」、そして「スカートの砂」はどちらも90年代後半のヒットソングだが、原曲はクールな印象だったのに対し、今回は聴いてる側も思わず熱くなるほどのエモーションをはらんだ楽曲へと変容。鈴木正人のベースラインも、大井一彌のドラミングも、かなり激しさを増す瞬間があった。エキサイティングだ。

 本公演は、前週の大阪・梅田芸術劇場に続いてのライブということもありメンバー全員かなり仕上がっている様子。当のUAは、いい歌はもちろんのこと、飾らないトークも聴かせてくれる。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

「皆さん、今日は夏至だよ。夏至だぜベイビー!」

「UAとなって満30歳! ♪Happy Birthday to me~(即興で口ずさむ)……自分で歌ってる(笑)。でもね、みんなも30年、めっちゃ頑張ったやーん! まあ30歳未満の顔も(お客さんの中には)チラホラありますけれど、みんなで、いろいろあったけどこの平和な30年をお祝いしたいと思います」

 彼女のそんな体温は自然に伝わっていて、客席から聞こえる拍手も歓声も、とてもあたたかい。「アルバムを作っているので、その中から2曲続けてお届けしたいと思います」と歌われたのは、「MOOD」と「ALK」という名の新曲たち。どちらも荒木による電子音がフィーチャーされているが、あくまで中心にあるのはUAの歌声だ。彼との化学反応は今もいい形で継続しているようである。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

 この日の野音は、日中は暑さがあったものの、夕刻になると熱気も落ち着いて会場を囲む木々からは鳥のさえずりも心地よく聞こえてくる。夏至の日のコンサートを喜ぶUAは、次は「愛を露に」を演奏。地球レベルの視点を持つこのスケールの大きなラブソングは「女子4人のみで頑張っちゃうぞ」との前置きのあと、UAとキーボードの小田朋美、コーラスのイガキアキコ(彼女は楽曲によりバイオリンも演奏)と神田智子の編成でパフォーマンスされた。この曲を収録したアルバム『JaPo』(2016年)の前後から、UAは人間の声や身体による肉体性をいっそう音楽に取り込むようになった感がある。

 ここでちょっとMCタイム。客席から子供の声が聞こえたようで、UAは「お母ちゃんって言った? (子供を見つけて)……ああ、かわいい。ここにもお母ちゃん、おるよ(自分のこと)」と笑顔に。そして自分の子供時代の話を始めた。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

「お母ちゃん(UA自身)はね、こう見えても1人っ子なんですよ。父を早くに亡くしたので、母と2人で暮らしてまいりました。なので、お留守番することが多くって、そうするといろんなことを想像しちゃうよね。こたつから出れなくなっちゃったり、トイレに行くドアを開けられなくなっちゃったり。布団の中にずっと隠れてたり、いろいろやってたんですけど(笑)」

 この話はずいぶん前にも、UA本人がどこかで話しているのを読んだ覚えがある。おかげで想像力が大きくなったとか、孤独であったがゆえに誰かを求める気持ちが強くなったとか。

「何かあったら、うー子に電話して。こたつにもぐってないで、電話して(笑)」

 その声に、西田修大によるギターの音色がそっと寄り添っていく。「電話をするよ」は、初期の曲の中でも印象深い楽曲だ。サンバ風のリズムが楽しい「TORO」でUAは客席を3つに分け、それぞれにコーラスを分担させて歌うように促す。しかも途中で「ニンニン! うー子は1回、消えます消えます!」と言ったかと思うと、次の瞬間には客席に入ってきて、会場中央の通路に立って、歌いはじめたのだ。湧き上がるオーディエンスと、そのド真ん中でさっきのコーラスのかけ合いを煽りながら、自分も歌うUA。すぐ目の前で明るい照明を浴び、その光の中で歌う彼女は本当に輝いているようで、しかも艶やか。素敵だ。

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

『UA 30th Anniversary Live』(撮影=ATSUKI IWASA)

 ステージに戻った彼女は「雲がちぎれる時」「数え足りない夜の足音」と、かつてのシングル曲を連射。後者はダブ/レゲエに接近したアルバム『turbo』からの楽曲だが、ここでは大井が叩き出す細やかなビートが曲を先導しており、実に刺激的。躍動感がさらに強くなっていく。

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