“写真”から紐解くヴィジュアル系の美学 『MASKED』主催 GOEMON RECORDS 石川雄一×カメラマン 宮脇進 特別対談

移り変わるV系シーンの今 「本当に本物じゃなきゃ生き残れなくなっている」(石川)

――宮脇さんと仕事をするようになったのは、事務所を立ち上げてから?
石川:そうですね。最初にΛrlequiΩの撮影をお願いしました。結成1年くらいで渋谷公会堂まで行ったあと、そこからバンドをどう大きくしていくかを考えるなかで、ヴィジュアルの質感を含めていろいろ変えていきたいと思っていたんです。ちょっとマイナー感を削除したいと考えたときにお願いしたのが宮脇さんで。撮っていただいたら全然違って、びっくりしました。
ーー具体的に宮脇さんの写真の魅力をどういうところに感じましたか。
石川:確実に言えることは、高級感と清潔感がある。ヴィジュアル系をプロデュースするうえで僕は結構清潔感を気にしていて。清潔感がないアーティストは売れないと思うので、そこをしっかり出していただけるのが素晴らしいなと。そこから、弊社のアーティストの撮影をいろいろお願いしています。
宮脇:『SHOXX』(音楽専科社)という雑誌が休刊したくらいから、ヴィジュアル系が世代移行した感じがあって、ちょっと距離ができていたんですよね。もちろん継続して撮っていたバンドはいたけど、俺もいろんなジャンルの人を撮るようになっていたし、若手のヴィジュアル系バンドと会う機会が少なかったなかで、石川さんとの出会いから若いバンドを撮る機会が増えました。



――幅広いジャンルを経験したことで、2000年の頃とはヴィジュアル系バンドへのアプローチに変化がありましたか?
宮脇:かなり違いました。たとえば石川さんの言う高級感や清潔感というのは、コントラストや質感ですよね。細かいニュアンスが潰れてしまうと生っぽく見せることが難しい。特に世代が上のミュージシャンを撮っていくと、本人のフィーリングや感情が伝わってきて写真自体が強くなるんですよ。そういう人たちと出会ったことで、本人の質感を潰しちゃいけないと思って、より丁寧になったと思います。
石川:なるほど。若手のバンドも、キャリアを重ねるとメンバー自身から「こう撮りたい」という意志が出てきますね。ΛrlequiΩも初期は僕が率先してプロデュースしていましたけど、今はメンバーの意志をどう具体化していくかというフェーズになってきています。
宮脇:うちの若いスタッフに、「最近のバンドはあんまり自分から発信しない」とか「すぐOKで何も言わない子が増えてきた」みたいな話を聞いていたりもしたんだけど。実際に撮ると、写真が大事だということにはみんな気づいているし、しっかり興味を持ってくれていますよね。
ーー2020年代に入って、ヴィジュアル系シーン自体の変遷をどう捉えていますか。
石川:昔よりもリアルにこだわった曲が刺さるようになっているなと思います。媚びずに自分たちの信念を貫くというか……今のヴィジュアル系は、本当に本物じゃなきゃ生き残れなくなっているのは確かですね。SNSが当たり前になって、嘘がバレやすい時代じゃないですか。そのなかで、自分たちの信念をちゃんと曲やアー写に落とし込めているバンドが先に進んでいる印象があります。やっぱり外見だけ取り繕っても、勢いが止まっちゃうんですよ。
宮脇:僕もそう思います。音もそうですけど、写真もどんどん加工できる時代なので。だからこそちょっと生感があったり、本人たちの色がちゃんと残っていたり、リアリティがあるほうが伝わる。あまりに非現実だと、むしろ伝わらないのかもしれない。だから、あんまりこっちから何かを着せたり、こっちが用意した光に合わせたりしないようにしています。そのバンドとメンバーの雰囲気を捉えて、本人の希望を聞かないと、単純に俺だけのエゴになってしまうから。
キズ、甘い暴力……シーンの最前線が集う『MASKED』開催への思い

――そして、今最前線で活躍するヴィジュアル系の祭典『MASKED』が開催されます。開催の経緯から伺えますか?
石川:今、バンド発信は多いけど、事務所発信のフェスやイベントが減っているなかで、あらためて「事務所主導のフェスを東京で作りたい」と思ったのが始動のきっかけなんです。事務所主導だからこそ、バンド単位では実現できないこともやろうと思って、テレビ番組やコラボカフェなど、いろいろ用意しました。出演ラインナップを決める前から「こういうことがやりたい」というアイデアがあったので、それをプレゼンしたときに賛同してくれる、一緒にストーリーを作れるバンドに声をかけて集まってもらっています。
――出演バンドのボーカル全員のソロアー写を撮り下ろすという企画が行われ、宮脇さんがすべての撮影を担当されたんですよね。石川さんから宮脇さんにオファーしたんですか?
石川:そうです。安心してクオリティの高いものを撮っていただけて、アーティストの「こういう姿になりたい」という部分をちゃんと落とし込んでくれるのは「宮脇さんしかいない!」と思って、すぐ連絡しました。
宮脇:最初に話を聞いたときはびっくりしました。舞台のパンフレット用などで大勢を撮ることはありますけど、全員共通の白バックでも結構大変なのに、全員シチュエーションを変えて撮るというから「マジですか!?」って(笑)。
石川:ははは(笑)! せっかく撮るんだったら、そのボーカリストのカッコ良さを100%引き出したアー写を撮っていきたくて。オフィシャルのアー写じゃなく、その雑誌だけの撮りおろし写真を見てドキドキすることって、きっと誰もが体験しているじゃないですか。今はヴィジュアル系の雑誌が少なくなったから、なかなかヴィジュアル系バンドの撮りおろし写真がないですよね。ちょっとアナログな考え方かもしれないけど、もう一度みんなにあのドキドキ感を味わってほしかったんです。
宮脇:その意図にはすごく賛同できたので、やれるだけのことをしたいと思いました。ほとんど初対面の子たちだから受け入れてもらえるか心配だったけど、今のバンドマンを今の俺が撮影したらどうなるのかも楽しみで。
石川:結果、大成功でしたよね。事前に僕と本人と宮脇さんで打ち合わせして、撮影イメージを落とし込んで。1枚ずつ写真が完成していくと、次に撮る子に影響して熱量がどんどん上がってきて、いい連鎖で進んでいきました。

宮脇:石川さんが1人目に撮る子をこだわって選んで、撮った写真をプリントアウトしてスタジオに貼ったんですよ(笑)。次に来た子がそれを見て、「これ以上の写真を撮らなきゃ」と刺激を受けるように。
石川:今回のアー写に限らず、基本的に僕が大事にしているのは「まわりのバンドマンにナメられないものを出したい」ということなので。1人目はRAZORの猟牙(Vo)くんにお願いしたんですけど、狙いどおりでしたね。一応ファッション雑誌の表紙みたいなイメージというテーマは設けつつ、テーマを投げたらバンド側も「こういうことをやりたい」というアイデアや意志を持ってきてくれました。

宮脇:ひとりとしてかぶっていないし、1枚1枚にストーリーがありますね。みんなしっかり向き合ってくれて、すごくクリエイティブだなと思いました。あと、基本的にどの写真もほぼトリミングしていないんですよ。伝わりづらいこだわりかもしれないけど、俺としては、自分が覗いたままのカメラのフォーマットの比率で完成しているものだから。撮ったあとに質感や色もほとんど調整していないです。メンバーもちゃんと仕上がりを想定してポーズを考えてくれていたと思います。
――では、あらためて『MASKED』への意気込みを聞かせていただけますか。
石川:今は個人でも活動ができる時代だから事務所は必要ないと思っているバンドマンもいると思うし、実際にそういう声を聞いて、悔しい気持ちもあったんですよね。だから、バンドマンにも事務所の可能性を示しつつ、ほかの事務所の方々にもいい刺激を与えられたらと思っています。やっぱり、昔と同じことをしていても進化がないですから。
宮脇:それはカメラの世界でも同じですよ。正直、どのバンドも全部同じに見えることがあるので、「毎回同じスタイルを当てはめて撮っていたらダメだよ」ってよく言うんです。音を聴いたら、それぞれ個性的でめちゃくちゃカッコいいんだから、写真でメンバーの個性が埋もれてしまうとかわいそうじゃないですか。ヴィジュアル系という言葉のとおり、視覚でバンドのイメージをより伝えられるのはこのジャンルの特権だと思うので。その元祖を作った人たちの目指していたものや、視覚で表現する原点みたいなところに、『MASKED』のアー写企画を通して石川さんが軌道修正してくれたと思います。
石川:とにかく、ファンの皆さんも、アーティスト側も、我々裏方も大好きなヴィジュアル系をもっともっとお茶の間や世界に発信していくプロジェクトなので。バンギャ、ギャ男のみなさんの新しいたまり場になるように、楽しんでもらいたいです!
■公演情報
『MASKED』
日程:2025年5月25日(日)
会場:Spotify O-EAST、Spotify O-WEST、duo MUSIC EXCHANGE
時間:開場11:00/開演12:00
チケット:THANK YOU SOLD OUT
オフィシャルサイト:http://www.masked-v.com/




















