ラ行、濁点、特殊表記、サブタイトル……“V系バンド名” 独自の美学とは 変遷から見出す時代ごとの傾向

 バンド活動をするアーティスト達にとって、バンド名は自分の名前と同じくらい、いや、ある意味自分の名前以上に大切なものであり、人生を背負う存在であるもの。なかでもヴィジュアル系バンドにとってはバンドの方向性、音楽性や表現の一部としてバンド名をとらえている者も多く、その名付け方にはさまざまな趣向が凝らされている。本稿ではそんなバンド名について、時代の移り変わりに伴う変遷や傾向を具体的な例を挙げながら辿っていきたいと思う。

 まずヴィジュアル系が世間に浸透していった1990年代。ヴィジュアル系のバンド名に対する一般的なイメージとして、最もオールドスクールかつスタンダードなものといえば、「ラ行で始まる」というものだろう。

 LUNA SEA、Laputa、ROUAGE、LAREINE、La'cryma Christi、La'Mule、Raphael、Luis-Mary、Lastier、LU⊃A、Lamiel、L'yse:nore、La:Sadie's……他にも例を挙げればキリがない。

 なかでもフランス語における定冠詞であり、英語でいうところの「The」にあたる「l'」、すなわち「La」「Le」に相当する単語から始まるバンド名は、気品や優美さを醸し出すイメージから、当時のヴィジュアル系が日本文化とは遠くかけ離れた異国情緒を持つということを表すのにうってつけであった。響きの柔らかさも、大胆さよりも妖艶さや透明感など、洗練された雰囲気を醸し出すのに一役買っている。これは、激しい音楽性を持つバンドに見え隠れする耽美さや美しさを映し出すイメージとしても重宝され、現代ではRAZORやRoyz、LIPHLICH、lynch.等がその流れを受け継いでいると考えられる。

LUNA SEA「ROSIER」MV
EXCENTRIC / lynch.

 また、もうひとつのイメージとしてはダ行、ガ行をはじめとした「濁点を多用する」というものであろう。言語学の世界では舌や唇を強く弾いて発音する濁音には強いイメージを抱くとされており、バンド名だけでなくさまざまな場面で強靭なイメージの象徴として用いられがちである。かつ、ヴィジュアル系においては「Die」「Death」「Dead」など、“死”を取り巻く言葉から連想されるダークなイメージから、ヴィジュアル系というジャンルの誕生以前より退廃的、硬派な雰囲気を持つバンドに用いられてきた歴史がある。例としてDEAD END、D'ERLANGER、Gargoyle、Gilles de Raisあたりが発端となり、90年代ではDIR EN GREY、D≒SIRE、DIE IN CRIES、DuelJewelらが、00年代ではD、girugamesh、Dué le quartz、D'espairsRay、the GazettE、DEATHGAZEらが、昨今ではDIAURA、DEZERT、DEXCORE、DEVILOOF、DazzlingBADらがその流れを継承していると言える。

D’ERLANGER「CRAZY4YOU」(MUSIC VIDEO) 【7thアルバム『Spectacular Nite -狂おしい夜について-』】
DIAURA「dazzle-消えた弾丸-」MV

 このようにしてヴィジュアル系バンドのバンド名に対するイメージが定着した1990年代への反動か、2000年代に突入するとバンド名の複雑怪奇化が顕著となっていく。従来の王道のセオリーからいかに外れるかによって独自性を見出し、ある種注目度を上げることが目的とも言える複雑化。具体的には以下のような例が挙げられる。

・正しい英語の読み方のセオリーを無視する
Kra(ケラ)、Para:noir(パラノイア)等

・漢字を用いて当て字のような読ませ方をする
アリス九號.(アリスナイン)、アンティック-珈琲店-(アンティックカフェ)、モダン組曲(モダンスウィート)、カミカゼ少年團(カミカゼボーイズ)等

・読み方に由来した特殊な表記を使用する
餞ハナむケ。(ハナムケ)、少女-ロリヰタ-23区(ロリータニジュウサンク)、。ルエカミ京東(トウキョウミカエル)等

・書かれている文字を読まない
彩冷える(アヤビエ)、愛狂います。(アイクル)、キス&ネイト(キスネイト)等

・サブタイトルをつける
Arc〜大人になりたくない子供達〜、凛-the end of corruption world-等

 そんな多様性が進むなかでも、傾向としてはシンプルなバンド名が台頭することが多く、既存の単語に意味合いを持たせた、もしくは響きを優先したバンドが先陣を切っている。the GazettE、シド、MUCC、NIGHTMARE、メリー、蜉蝣、girugamesh、D、BAROQUEなどが2000年代を代表するバンドとして挙げられるだろう。

the GazettE「SHIVER」MV

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