lynch.が蘇らせた初期衝動と5人で鳴らす“今” 結成20周年の歩みを映し出すリテイクアルバムを全員で語る

lynch.が蘇らせた初期衝動

 lynch.が、リテイクアルバム『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』をリリースした。

 今作は、結成20周年記念企画の第4弾。lynch.がインディーズ時代にリリースした、現在は入手困難となっている楽曲たちが新たにレコーディングされた。さらに、書き下ろし新曲も収録。「“今”を反映できていないと、リテイクする意味ってないと思うんです」と玲央が語っていたが、リテイクアルバムでありながらも、まさにlynch.が歩んできた20年、そして“今”が詰まっている作品である。メンバー全員インタビューで、結成20周年と『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』について語ってもらった。(編集部)

この5人で演奏している形でないと出したくないという強い気持ちがあった(玲央)

「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」全曲試聴動画 / lynch.

――今回20周年企画の第4弾としてすでに廃盤となっている初期作品『greedy dead souls』、『underneath the skin』のリテイクアルバムをリリースしましたが、まずリテイクに至った経緯を教えてください。

玲央(Gt):20周年イヤーということで、この一年を通して皆さんに楽しんでもらえるような企画をいろいろと展開していこうという話のなかで、廃盤になった過去の作品をこの5人でリテイクしてリリースするのはどうかと、すごく自然な流れで案として出てきました。

――その2作品に関して、当時は葉月さんと玲央さんと晁直さんの3人体制でしたもんね。

玲央:そうですね。当時はオリジナルメンバー3人にサポートメンバーを加える形でのレコーディングで、悠介と明徳は参加していないのもあって。当時のままの形で出すというのは大前提として考えられなかったので、リテイクすることになりました。

――廃盤で現在入手困難ということもあり、ファンからのリクエストも少なくなかったんじゃないですか?

葉月(Vo):サイン会とかで、ファンの方々にはよく「『サブスクで配信してください』って玲央さんに言ってください!」って言われてました(笑)。

玲央:(笑)。実際ファンの皆さんとお話しする機会でも「サブスクでもいいのでなんとか手に入りませんか?」という声もたくさんいただいていました。でも、この5人で演奏している形でないと出したくないという強い気持ちがあったので、出すなら今しかないだろう、と。なので、このタイミングでのリリースになったんです。

葉月(Vo)(撮影=西村満)
葉月(Vo)

――もちろんファンの方からのリクエストという側面も多分にあるなかで、メンバーの皆さん自身も録り直したいという思いはあったんですか?

悠介(Gt):いつか僕の音が入った状態で曲を残しておきたいという思いはありました。なので、今回こういう機会をもらって、自分のなかの心残りが解消できたというのは大きいですね。

――悠介さんに同じく、当時は明徳さんも加入する前でしたもんね。

明徳(Ba):僕は自分の音で録り直したい気持ちが半分ありつつ、僕自身オリジナルの楽曲の偉大さは理解しているので、それはそのままでいてほしいという気持ちもあったんですよね。でも、廃盤だから聴きたくても聴けない現状でもあって。配信されるという前提で、このタイミングで録り直せたのはよかったと思います。

――過去に再録している楽曲も多数あるなかで、たとえば「ALIEN TUNE」や「THE WHIRL」なんかは3回目のリテイクとなるわけで。すでに再録している曲ならではの難しさはありましたか?

玲央:“今”を反映できていないと、リテイクする意味ってないと思うんですよ。前作をなぞるだけだったらあまり意味を感じない。だからといって、「何か特別なことをしなきゃ!」というのも、それはそれで違う。その匙加減というか、いかに皆さんの楽曲への想いや当時の雰囲気を崩さないようにするかという部分の塩梅を探るのは難しかったですね。ただ、プレイが始まってしまえば、“今”を反映させるだけなので、その難しさはなかったです。

玲央(Gt)(撮影=西村満)
玲央(Gt)

――晁直さんは当時と比べてプレイスタイルの変化も大きかったかと思いますが。

晁直(Dr):そこまでプレイスタイルの変化は意識してなかったですね。でも、20年の積み重ねで演奏やアレンジが次第にライブ仕様になっている楽曲が多かったので、それを調整するのは大変でした。

――実際リテイクにあたって、どのようにブラッシュアップしていきましたか?

玲央:リテイクアルバムに対しては細心の注意を払いたいと思ってました。皆さんの思い出を否定したくないので、基本の部分は変えたくなかったんです。とはいえ、当時は足し算の発想でレコーディングをしていたのは否めないので、今の自分から見ていちばんの理想形に収まるように、適宜引き算をしていきました。

――たしかに、聴いた時の印象がいい意味で違和感がなく、聴き馴染みのあるものなので、安心します。

玲央:オリジナルアルバムを聴いている方が、がっかりしない作品にしたかったんですよね。僕自身も経験がありますが、好きなアーティストがリテイクしたものを再生した時に、妙にぬるっとしたテンポの遅さに変わっていたりっていうのがあるじゃないですか。「これだったら、オリジナルのほうがいいじゃん!」みたいな。そういうものにだけは絶対にしたくなかったんです。

当時やりたかったことをやってあげられた(葉月)

(撮影=西村満)
悠介(Gt)

――実際に今作を聴かせていただいて、音の圧はもちろんのこと、演奏技術や特に歌の面での表現力をとても感じました。特に『greedy dead souls』なんかは当時かなり大人びた作品をリリースしたなと思った記憶があるのですが、それにようやくバンドの実年齢が追いついて、ようやく作品が完成したような感覚で。

葉月:当時、僕の頭のなかにはビジョンやイメージがすごくしっかりとあって、こういうクオリティのものを作りたいとレコーディングに臨んだんですけど、自分の知識不足や技術不足、当時のレコーディング環境の限界とかもありながら、それが全然叶わなかったんですね。その後もリリースの度に「理想に届かなかったなあ」という思いを繰り返し持ち続けていて、やっと思うようなものができたなと思うのが『GALLOWS』(2014年)頃なんです。なので、当時やりたかったことをやってあげられたというか。「こういうものにしたかったよね」と思いながら制作していました。

――そのクオリティに対する思いというのはレコーディング以外、たとえば楽曲や歌の面にも言えますか。

葉月:楽曲に関してはほとんど何も触ってなくて、今回触ったのは「REW」の間奏くらいですね。あとは玲央さんが言っていたように、基本的には変えていないです。先ほど挙げてくださった「ALIEN TUNE」や「THE WHIRL」は3回目のリテイクなんですけど、今回は最初期の頃を意識して録りました。というのも、数年前のリテイクでは、最初期の声の感じが出せなくて。でも、今はいろいろな知識が身について、当時の声の出し方の仕組みもわかるようになったので、本当はやりたかったであろう発声であえて作っていったという側面もあります。

明徳(Ba)(撮影=西村満)
明徳(Ba)

――シャウトに関してはいかがですか?

葉月:当時のシャウトは低くてゴツゴツしたシャウトなんですけど、「これどうやってやってるんだ?」って。今回録り直すにあたって、ここ最近のシャウトの感覚で録ってみたんですけど軽くて雰囲気が出ない。それで練習してみたら、まるで鳴らす位置が違うことがわかって。とても勉強になったと同時に、それ自体が面白くて、今作では多用しています。

――当時の自分と向き合って制作する反面、明徳さんはゆきのさん(天野攸紀/当時のサポートメンバー)や葉月さんの弾いたベースに対してどのように向き合ってご自身のベースを弾いたのでしょう?

明徳:今回はオリジナルに寄せて弾きました。当時のベースラインと改めて向き合ってみると、今のlynch.にはない裏(裏拍)の取り方がきっちりしていて、隙間を活かしたフレージングになっていたり、いろいろな気づきがありましたね。全曲ライブでやったことはあるんですけど、レコーディングを通して一周して、とても勉強になりました。

晁直(Dr)(撮影=西村満)
晁直(Dr)

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