Laura day romance「好きなものと並べても恥ずかしくない音楽を」 新曲「heart」に至るまでの軌跡

ローラズ「heart」に至るまでの軌跡

“長編”であることに意味があった最新アルバム『合歓る - walls』

Laura day romance(撮影=林将平)

Laura day romance(撮影=林将平)

ーーそういうトレーニング期間を抜けて制作した最新アルバム『合歓る - walls』は、2作で構成されるコンセプトアルバムの「前編」です。こうした長編に挑戦しようと思われたのはどうしてですか?

鈴木:ドラマや映画を観ていて、短い作品では表現しきれないものがあると気づいたんです。長編小説を読み切った時、長い映画を観切った時に初めて伝わるものにクリエイターとして挑戦したいと思いました。それで最初は20曲入りのアルバムを考えていたんですけど。事務所のスタッフから「1枚10曲のアルバムを2枚続けて出すのはどう?」って提案されて。

井上:そうして正解だったと思います。1曲が短いわけでもないし、20曲もあったら最後の方の曲は聴かれないかもしれない。

ーー確かにそうですね。ストリーミングが主流になった今、頭から順を追って20曲聴いてもらうのは難しいかも。

鈴木:僕たちはギリギリ、アルバムを最初から聴く楽しみを知っている世代なんで、こういうことをやってみたくなるんですよね。

井上:小さい頃から『ハリー・ポッター』のようなシリーズものや、長編の小説が好きなので、迅くんからアイデアを聞いた時はワクワクしました。

ーーアルバムを聴くと2人の人物の出会いの物語のようですね。

鈴木:かっちゃんに聞いた話からインスパイアされた物語なんです。話してくれる?

井上:中学の時に「この子と友達になりたい!」って会った瞬間に思った女の子がいたんです。彼女とは同じ女子高に通って、一緒にバンドを組んだりしたんですけど、すごく仲良くなれて、その子のことが大好きだったんです。今思うと、その時の気持ちって友情なのか恋なのかわからない。でも、別にそこを分ける必要ってないかもなと思って。なんと呼んだらいいのか、名付けようがない関係だったんですよね。そういう話を迅くんにしたら、少し驚きを持って聞いてくれて。自分の周りにはそういう人はいなかったって。

鈴木:というか、そういう人がいたかもしれないけど、自分が発見する機会がなかったのかもしれないと思ったんです。そういう関係があるのは本や映画を通じて知ってましたが、自分の身近な人から聞いたのは初めてで、自分ごととして考えるようになった。それが物語のきっかけでした。

ーーそういう女性同士の関係というのは、男の親友とはまた違うものかもしれませんね。女性は仲が良い友だちと手をつないだりできるけど、男同士だとそうはいかないし。

井上:確かにそういう空気はあるのかもしれないですね。私は相手が女性というだけで親密さを感じるところがあって……。大学の頃フェミニズムの勉強を少ししていたんですけど、それも含めてこれまでそういう話は友達とはしても、バンドメンバーとはしていなかったんです。だから迅くんに話をしたのは、それだけ距離が近づいたということかもしれないですね。

ーーそういうセンシティブな話から広がったテーマをどういうサウンドで表現するのか、という点では、どんなことを考えました?

鈴木:舞台装置のようなサウンドというか、聴く人のイメージを喚起するようなサウンドにしようと思いました。歌詞で表現されている景色であったり、感情の揺れだったりをサウンドで表現しようと思ったんです。そうすることで、歌詞を読んでもわからないところをサウンドで補完できればと。

ーーアルバムの冒頭に地下鉄の環境音が入っていたりして、映画的な演出を感じさせますね。

礒本:「舞台装置のようなサウンド」っていうのは後から聞いたんですけど、曲を作っている時からそういうニュアンスは感じていて。「転校生」という曲でガラッと曲調が切り替わるところがあるんですけど、そこのドラムはカメラが切り替わる感じを意識して叩いたりしてました。映画を撮る時にいろんな照明が必要なように、ドラムでいろんなことをやらないといけないと思っていて。だから、このアルバムを出す前に4枚のEPを通じていろんな曲に挑戦してよかったです。

ーー鍛えた甲斐があった。ボーカルで意識したことはありますか?

井上:私は曲の語り手であり、主人公であり、自分自身でもある。 だから3人の人格があって、いつもどの側面を強く出すかでバランスを取っているんです。今回は曲によってまちまちではあるんですけど、私の側面はいつもより減らした気がします。曲によって主人公の気持ちで歌ったり、ちょっと俯瞰してる感じで歌ったり。バランスを考えながら歌うことで、聴いている人が物語に入り込みやすいようにしたつもりです。

ーーこうして作品を振り返っていくと、アルバムを出すごとに歌詞の比重が高まっているような気がしますね。

井上:ほんと、そうですね。

鈴木:作品を重ねるにつれて、歌詞について深く考えるようになりましたね。日本の他のアーティストの作品で良い歌詞に出会ったときに、「その歌詞が母語だからこそ世界で一番わかる」ってことに喜びを感じるんですよ。だから歌詞にかける時間は増えています。

井上:読書もしてるしね。前は迅くんより私の方が本好きだったんですけど、最近は迅くんの方が読んでるかもしれない。

ーードストエフスキーとか志賀直哉とか、かなり重厚なものを読んでいるそうですね。

鈴木:ドストエフスキーに関しては、これを読めたら他の本も大抵大丈夫だろうと思って一番最初にチャレンジしたんです。そしたら意外とすんなり読めたんですよね。

初タイアップ曲は「アンのことがわかる100点満点の歌詞」

Laura day romance(撮影=林将平)

ーー読書体験も創作に反映されているわけですね。そして、新曲「heart」は名作『赤毛のアン』をアニメ化した『アン・シャーリー』のエンディングテーマ曲。もちろん、原作は読まれました?

鈴木:めっちゃ読みました。アニメが2巻までの内容なので、2巻までじっくりと時間をかけて。

ーー原作のどんなところを曲に反映させようと思いました?

鈴木:大事件が起こるわけではなく、小さな出来事を通じてアンが変化していく話じゃないですか。そういう小さな出来事の積み重ねを曲に落とし込めたら、曲とアニメが補完しあう関係になるんじゃないかと思いました。

井上:私も原作を読み返しました。その後で迅くんが書いた歌詞を読んで、原作を読んでいなくても、ちゃんとアンのことがわかる100点満点の歌詞でびっくりしました。曲は普段の感じと違うし、「タイアップ、うまっ!」って(笑)。

ーーカントリーっぽいサウンドが『赤毛のアン』の世界にフィットしてましたね。

鈴木:いつものように、ちょっと不穏な感じをサウンドに忍ばせてはいるんですけど、それが表に出ないギリギリのところにとどめているんです。あくまでプラスの面が含んでいるマイナスの可能性程度にしている。だから、僕らの世界観よりかはバランスを整えている感じですね。

Laura day romance / heart (official music video)

ーー絶妙のバランスですね。本作は初のタイアップ曲であり、メジャーデビュー曲でもあります。何か心境の変化はありますか?

鈴木:これまでとやることは変わらないと思うんですけど、これからは今回のようなタイアップの機会をいただくことも増えていくと思うんですよね。その都度、バランスを悩んだりしながら、いろいろと学んでいけたらいいなと思います。

礒本:きっと、これまでと違う文脈で僕たちの音楽を聴いてくれる人が増えると思うんですよ。そういう人たちに自分たちがどう映るのか、というのは僕たちがまだ経験したことがないことで。そういう人たちにどういう音楽を提示していくのか。そして、音楽以外のところでどういうものを見せていくのか、ということが大事になってくると思うんですよ。

ーーそうですね。ローラズを通じて初めてUSインディーや洋楽的なサウンドに触れて興味を持った人にとって、ローラズのメンバーが普段どんな音楽を聴いているのか。どんな本を読んで、どんな映画を見ているのかが、新しい世界を広げていくうえで大切なヒントになるんでしょうね。

礒本:そう考えると身が引き締まる思いです。

井上:Homecomingsの福富(優樹)さんとかすごいよね。自分が好きなものをどんどん外に向けて発信しているし。

ーーHomecomingsは音楽以外のカルチャーに裾野を広げてファンと一緒にシーンを育てようとしていますよね。だから、自分たちが好きなものに対して強いこだわりがある。はっぴいえんどやシュガー・ベイブの頃から、日本のロックは洋楽をどうやって自分たちのサウンドに昇華させていくか、その試行錯誤の歴史でした。だから自分たちが好きな音楽に対してこだわり続けた。そういったバンドの系譜にHomecomingsやローラズはいるのではないでしょうか。

鈴木:やっぱり、自分が好きなものに嘘はつけないというか。後ろめたい気持ちで音楽をやりたくない。だから、自分たちが好きなものと並べても恥ずかしくない音楽をやりたい、というのはずっと思っていたし、これからも努力するつもりです。これまで自分たちの好きなものに近付こうとしているうちに、自分たちの色が少しずつ出てきたと思うんですよね。

礒本:僕らが自分たちが好きなものを胸を張ってやってるからこそ、ファンは信頼して聴いてくれる。その信頼を絶対に失ってはいけないと思っています。そして、僕らの音楽を聴いてくれる人の音楽の幅を広げられるような曲を作っていきたい。僕らの音楽を通じて、見るもの、聴くものが変わっていくと良いなって思いますね。

井上:私たちのようなバンドがメジャーにいってホムカミとかと一緒に邦楽シーンの真ん中にいけたら、すごく夢があることじゃないですか。だから迅くんが悩みながら作った曲を、私はこれからも歌い続けていきたいと思っています。そういえば今度、ホムカミの福富さん、畳野(彩加)さんと公園で鬼ごっこをする約束をしていて(笑)、今から楽しみにしています!

Laura day romance「heart」
Laura day romance「heart」

■リリース情報
Laura day romance「heart」
アニメ『アン・シャーリー』エンディング・テーマ
3月26日(水)配信リリース
配信:https://lnk.to/Lauradayromance_heart

■アニメ情報
アニメ『アン・シャーリー』
放送:2025年4月5日(土) 18時25分~ NHK Eテレにて放送開始(予定)
話数:全24話
アニメ公式サイト:https://anime-ann-e.jp
アニメPV:https://nhk.jp/anime-ann-e

<スタッフ>
監督 川又浩
シリーズ構成 高橋ナツコ
キャラクターデザイン 土屋堅一
作画監督 渡辺裕二/斎藤直子
美術監督 工藤ただし
色彩設計 久力志保
撮影監督 齋藤真次
音響監督 小泉紀介
音楽 大島ミチル

<キャスト>
アン・シャーリー 井上ほの花
マリラ・カスバート 中村綾
マシュウ・カスバート 松本保典
ギルバート・ブライス 宮瀬尚也
ダイアナ・バーリー 宮本侑芽
J .A.ハリソン 太田光

Laura day romance 公式サイト:https://lauradayromance.com/
Laura day romance X:https://x.com/lauradayromance
Laura day romance Instagram:https://www.instagram.com/lauradayromance/
Laura day romance YouTube:https://www.youtube.com/@lauradayromance
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