LINKIN PARK、新体制で示した揺るぎないアイデンティティ 歓喜の声で溢れた来日公演を観て

細かいことを言えば、確かにキーの低い楽曲やパートにおいては、その歌声がややバンドサウンドの影に埋もれてしまいがちな傾向があったことも否めない。ただ、たとえば「Two Faced」や「Casualty」(ともに『FROM ZERO』に収録)におけるアグレッシブなシャウト/スクリームには付け焼刃なものではない威力が伴っていたし、過去曲での歌唱についても、原曲のニュアンスを活かそうとする姿勢がうかがえた。

しかも彼女の声とたたずまい自体に、観る者の視覚と聴覚を独り占めするような魅力があり、ヒーロー感(あえてヒロインとは言わずにおきたい)とでもいうべきものが伴っているのだ。もうひとりのフロントマンであるマイク・シノダの歌唱が、ラップではない箇所についてはやや平板であるだけに(もちろんそこが彼の持ち味のひとつでもあるのだが)、ボーカル面における感情表現の起伏はほぼエミリーに委ねられる形になっているが、これが現在のLINKIN PARKにおける“ハイブリッド”の構図なのだろう。

そんな具合にして、どうしても目と耳はエミリーを追いがちにはなるのだが、新ドラマーに迎えられているコリン・ブリテンの存在感にも注目すべきものがあったし、アルバムには参加していながらもツアーへの不参加を表明したブラッド・デルソンに代わりサポートギタリストとして同行しているアレックス・フェダーも、過不足のない演奏により、このバンドならではのサウンドスケープを成立させるうえで不可欠な貢献を果たしていたように思う。また、ターンテーブルやサンプラーを操るジョー・ハーンにはソロタイムが設けられていたのに対し、彼と同様にオリジナルメンバーのひとりであるベーシストのフェニックスには特筆すべき見せ場が用意されていなかったが、そうしたバランスのあり方も、マイクとエミリーのふたりを前面に押し出した現在のフォーメーションのスキのなさに繋がっていたように思う。

この夜のステージはアンコールを含めて約2時間に及び、結果的に最新作からは7曲が披露された。過去作品からも満遍なく選曲されていたが、デビュー作である『HYBRID THEORY』(2000年)からのセレクトが5曲にも及んだことは、「21世紀、もっとも高いセールスを記録したデビュー作」という輝かしい実績を持つ同作に、セットリストから外すわけにいかない楽曲がいかに多いかを示していた。同時に、ふたたび「ゼロ地点からのスタート」へと踏み切ったこのバンドの現在地が、過去作品で言えば同作にいちばん近いところにあることを示しているようにも感じられた。

ショー全体を通じて、これまでのどんな局面とも異なった座標にいる現在のLINKIN PARKのアップデートされた姿を目撃できたことに大きな喜びを感じたが、オーディエンスの反応の素晴らしさにも心を動かされた。なにしろエミリーが客席にマイクロフォンを向けてみせる場面ばかりではなく、そうではない時にも観衆の合唱が止まることはなかったのだ。さらにこの第一夜には、2月8日に誕生日を迎えていたフェニックス、ちょうど公演当日に年齢を重ねていたマイクのために大きなバースデーケーキが用意され、エミリーの先導により「Happy Birthday To You」の合唱が発生するという特別な瞬間もあった。それ以外にいわゆるサプライズ要素はなかったが、ある意味、この破綻のなさもまたLINKIN PARKの機能美を象徴するものなのだと感じさせられたし、このバンドの帰還を歓迎し、素晴らしい現在を祝福するかのようなムードの充満する空間が、とても心地よかった。そして、このタイミングで彼らの現在に触れられたことをとても幸運に思えたし、だからこそ今は、すでに始まっている新たな進化がどんな方向に向かっていくことになるのかが楽しみでならない。

























