Wez Atlas、Kota Matsukawa(w.a.u)と見出したポップスターへの道 同い年の感性から生まれるクリエイティブ
日本とアメリカをルーツに持ち、東京を拠点とするヒップホップアーティスト Wez Atlas。現在進行形のUSヒップホップとリンクしたトラック、英語と日本語を融合させたフロウ、自らのバックグランドや感情をリアルに刻んだリリックによって、確実に注目を集めている。昨年11月にはEP『ABOUT TIME』をリリースし、今年1月15日には最新曲「My Village (feat.Skaai)」を配信リリース。これらの新曲群では日本語の歌詞が増え、最突端のヒップホップと幅広いリスナーに訴求できるポップネスを絶妙なバランスで体現している。
リアルサウンドではWez Atlasと、EP『ABOUT TIME』、新曲「My Village (feat.Skaai)」のプロデュース/トラックメイクを手がけたKota Matsukawa(w.a.u)の対談をセッティング。1998年生まれの2人に、本作の制作やクリエイティブに対する姿勢などについて語り合ってもらった。(森朋之)
MatsukawaがWez Atlasの音楽に感じた面白さ
——Wezさん、Matsukawaさんの出会いは?
Wez Atlas(以下、Wez):きっかけはVivaOlaですね。彼が共通の知り合いで……どういうタイムラインだったっけ?
Kota Matsukawa(以下、Matsukawa):VivaOlaと俺が制作し始めて、「Wez Atlasってヤツがいるんだけど、ビートメイクを手伝ってくれない?」って言われたんじゃなかったかな。最初はたぶん、渋谷のContact(2022年9月閉店)でやって……俺ら主催のイベントじゃなかったかな。w.a.uがバックバンドをやって、何人かフロントマンとして出てもらったんだけど、その中にWezもいて。そのときはあまり話してなかったと思うけど。ちゃんと関わったのは、2023年に出したEP(『This Too Shall Pass』)のときだから。
Wez:そうか。『This Too Shall Pass』に入ってる「Life’s A Game」「It Is What It Is」をVivaOlaと作ってて、そこにプロデューサーとしてMatsukawaに入ってもらって。VivaOlaの家で会ったのが最初だったかも。
——そのときのお互いの印象は?
Matsukawa:人当たりのいいヤツ。
Wez:(笑)。
Matsukawa:角が立たないっていうのかな。カマすこともないし、「俺、アーティストだから」って距離を置く感じもなくて。普通に、友達に陽気なヤツを紹介された感じでした(笑)。たぶん最初の頃は、俺に気を遣ってたと思うんですよ。自分は人によって態度を変えないようにしていて、それはプロデュースという行為をする上でも大事だと思ってて。仲良くしないとかではなくて、フラットな感じでいるだけなんですけど、Wezは俺を楽しませようと頑張ってくれてて。
Wez:そうね。Matsukawaがちょっとドライに見えたから、笑顔が見たかった(笑)。
Matsukawa:ハハハ(笑)。
Wez:無理してたわけではなくて、最初のセッションがすごく楽しかったんですよ。「Life’s A Game」のレコーディングは、部屋を暗くして、手持ちのマイクでライブみたいにラップしたんです。
Matsukawa:Wezのテンションを上げるためにどうしたらいいかな? と考えて、ダイナミックマイクでやってもらったんですよ。マイクの持ち方は気をつけてもらったんだけど、あとは自由に動いてもらって。
——音楽的にも通じ合える部分があった?
Matsukawa:そうですね。曲を一緒にやる前に、それまでのWezの楽曲を聴いてみたんですけど、「日本にもこういう感じでやってる人がいるんだな」と思って。日本のヒップホップはトラップとかドリルとか、どちらかというとバウンシーなものが多い気がして。Wezの曲はそうではないし、面白いなと思いました。
Wez:Matsukawaはマシンでしたね。
Matsukawa:ハハハ(笑)。
Wez:最初のセッションのときに、俺とVivaOlaが作ったデモ音源に対して、Matsukawaがドラムをイジってくれたんですよ。それで一気にビートが重くなって、すごく渋くなって。
Matsukawa:曲自体を変えるというより、「ぶっといドラムのほうがいいよね」っていうアバウトな話をしてたんですよ。
Wez:俺は後ろでMatsukawaの作業を見てただけなんですけど、どんどんカッコよくなって。マシンだなって(笑)。
Matsukawa:サウンドメイキング的な観点もあるんですよ。作りながらミックスしているし、音自体をどう扱うかによって印象が変わるので。
Wez:俺はもともとフィーリング、感覚で作っていくタイプだったんですよ。音のイメージを伝えるときに、「子供の頃にさ……」みたいな話をするっていう(笑)。Matsukawaはすごくロジカルだから、作業を見ながらめちゃくちゃ吸収してます。今は「このEQをイジったら、こうなるんだな」みたいなことがわかるようになってきて。
Matsukawa:解像度が上がってきた感じがあるよね。『ABOUT TIME』の制作もそうだったんだけど、サウンドメイクの細かいところまで話してくるようになって。それは自分的にもありがたいし、「そこまでわかってるんだったら、こういうこともやれるな」と広がっていくので。あと、ボーカルやブレスのディテールがすごいんですよ。ミキシングする人みたいなチェック機能が備わってきてる(笑)。
Wez:やっぱりボーカルには敏感になっちゃいますね。
“人生一度きり”——EP『ABOUT TIME』に込められたテーマ
——MatsukawaさんはWezさんの新作EP『ABOUT TIME』にもトータルプロデューサーとして関わっています。
Matsukawa:はい。『ABOUT TIME』の前に「Summit」「40℃」というシングルが出てたんですけど、そのときに「プロデューサーとして来てくれない?」と言われて。結局、EP全部やることになりました。
Wez:8〜9月くらいだよね。
Matsukawa:(制作中の)ノースリーブで写ってる写真もあるからね(笑)。
Wez:たぶん最初は「40℃」だったかな。今までで一番ペースが早かったんですよ。これまでは結構じっくり作るタイプだったから、新鮮でした。大学生の頃はとりあえず集まって、遊んだり探りながらやってたんですけど、今は時期を決めて「この期間でやり切る」という感じになって。「この曲は1日で作る」ということもあったし、迷いがなくなってよかったですね。
——『ABOUT TIME』にはWezさんが過ごしてきた時間、リスナーが過ごす時間に楽曲とともに寄り添いたいというメッセージが込められているとか。
Wez:そうですね。「One Life」が先にできて、その歌のテーマが軸になっていて。“人生一度きり”という意味もあるし、「Wez Atlas、そろそろでしょ」みたいな気持ちもあったんですよね。“良い危機感”みたいな日本語の言い方ってある?
Matsukawa:「Wez、そろそろ来ないとヤバいでしょ」みたいな感じかな。
Wez:そうか(笑)。そういう流れを作りたいという自分の中のコンセプトもありました。
——制作中も、EPのコンセプトやテーマを共有していたんですか?
Matsukawa:いや、そんなに。EPやアルバムに関わるときは、「こういう曲があったらいんじゃないかな」というインストをいくつか作って、それに歌を乗せてもらって……という感じなんですよ。そのリリックを聴いて「いいじゃん」って思うことはあるんですけど、あらかじめ歌の内容について話すことはないし、そこに干渉するのはプロデューサーとしてどうなのかな? というところもあるので。RECのときも「ここにもう一つ音節が欲しい」みたいなことは言いますけど、テーマについて深く話すことはないですね。
Wez:他のアーティストとやるときも同じ?
Matsukawa:基本的にはそうだね。俺が関わっているアーティストは、どちらかというとサウンド先行で、音がカッコいいほうがいいやつが多いんですよ。その上で、その人らしさが出ればいいのかなと。
Wez:なるほどね。サウンドに関してはMatsukawaに任せていたし、「かかってこい」みたいな気持ちでした(笑)。ビートを送ってもらって、「これに絶対いい歌詞を乗せる」という感じでやってたから、ボツになった曲もなかったんですよ。