『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』シリーズから辿るゲーム音楽の変遷 古代祐三が世界を驚かせ続ける理由
2004年の稼働開始から2024年でシリーズ通算20周年を迎えた大人気アーケードレースゲーム『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』。そのシリーズ最新作となる『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 6RR PLUS』(以下、『6RR PLUS』)の楽曲を収録したサウンドトラック『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 6RR PLUS Original Sound Track』、そして同作と前作『6RR』の楽曲を一枚にまとめた作品『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』が、昨年待望のCD化を実現した(配信でも同時リリース)。
楽曲制作を担当したのは、初作から20年にわたって本シリーズの作曲家を担当し続けているゲーム音楽作曲家の古代祐三で、本作でも、シリーズの代名詞とも言えるトランスをベースとしたアグレッシブなダンスミュージックの数々を存分に楽しむことができる。
古代祐三、日本発ダンスミュージックとして世界に与えた影響
さて、今回は音楽面にフォーカスしたレビュー記事ということで、このまま本編に入ってもいいのだが、まずは古代祐三という作曲家について触れておく必要があるだろう。特に近年では、音楽におけるゲーム音楽の位置づけを見直す動きが進んでおり(2023年には近藤浩治が手掛けた『スーパーマリオブラザーズ』の「地上BGM」がアメリカ議会図書館の全米録音資料登録簿に登録されるという出来事があった)、古代祐三という偉大な作曲家についても、今後はさらに再評価の動きが加速することが期待できる。
『イース』(1987年)や『世界樹の迷宮』(2007年)など、これまで様々な作品に楽曲を提供してきた古代だが、その幅広い活動歴の中でも特に重要なのが、1980年代後半から90年代のテクノやハウスを中心としたダンスミュージックの動きを、ゲームを通じて世界中の家庭(特に当時の子ども)に直接届けていたということだろう。90年代の北米市場を中心に絶大なヒットとなっていたメガドライブ用のゲーム音楽を手掛けていた古代は、『ザ・スーパー忍』(1989年)や『ベア・ナックル』シリーズ(1991年~)といった作品の楽曲制作において、当時、自身が夢中になっていたダンスミュージックからの影響を色濃く反映していたのである。そのこだわりは、当時のサウンドの主軸を担っていたTR-808やTR-909といったドラムマシンの音をサンプリングしてビートを組んでいたことからも分かるのではないだろうか。
その音はゲームを通して、現代のシーンで活躍するさまざまなアーティストに影響を与えており、Red Bull制作のドキュメンタリーシリーズ「Diggin’ in the Carts エピソード4:クールキッズ」(※1)では、Flying LotusやJust Blaze、Ikonika、Anamanaguchiといった錚々たる顔ぶれが、当時を回想しながら古代のサウンドを絶賛している。中でも、Just Blazeが語る「祐三さんは日本人かもしれないけど、俺からすれば彼はデトロイト(テクノ発祥の地)育ちだよ。(中略)世界の反対側にいる彼らこそが、アメリカの子供と音楽オタクの一世代の基盤を築いたんだ」という言葉は、その影響力の大きさを最もよく示している。古代の取り組みは、日本のテクノ/ハウスの歴史においても、まさに最初期のものに位置しており、日本発のダンスミュージックとして世界に大きな影響を与えていたのだ。
これは古代が手掛けた楽曲に限った話ではないが、「ゲーム音楽」というジャンルの持つ魅力の一つは、それがさまざまな制約の元に成立していることにある。今でこそ、80年代〜90年代のようなハードウェア上の限界に悩まされることは少なくなったが(当時のユニークなサウンドの持つ魅力は、チップチューンなどに引き継がれていった)、その音楽がプレイヤーのゲーム体験と不可分であることは今も変わらない。古代の楽曲の魅力は、まさにそうした制約の中で、自身の持つ音楽性やアイデアを最大限に発揮することで生まれる、ユニークで尖ったサウンドにあるだろう。それは、今回リリースされた『6RR PLUS』のサウンドトラックでもしっかりと楽しむことができる。