ゆきむら。「泥水啜ってでも這い上がっていきたい」 葛藤の1年、ゼロからの再スタートを誓う
“永遠の悪夢”に込めた想い「棺桶に入るまで悩みは尽きない」
ーーそうした活動を経てようやく完成した1stアルバム『- Never ending Nightmare-†』ですが、このタイトルにはどんな思いが込められてますか?
ゆきむら。:全国流通と聞いた時に一枚でも多く届けたいと思ったので、タイトルはキャッチーじゃなきゃと思ったのと、そこで自分のスタンスを崩すようなタイトルにして変に思われるのが、何より悲しませちゃうのかなって思いました。せっかく自分がステップアップしてるのに「これゆきむら。じゃねえな」と思われたら元も子もない。
ーー自分のスタンスを貫こうと。
ゆきむら。:タイトルの“覚めない悪夢”というのは、今までいろんな人の闇に寄り添ってきたゆきむら。だからこそ「覚めなくていい。自分たちは悪夢の中で生き続けよう」という思いでつけました。ダークで意味深な印象を受け取られるかもしれないですけど、それこそ今まで自分を見てくれた人には「これぞゆきむら。だ」と思ってもらえると思います。
ーー2ndアルバムも『ナイトメア』というタイトルでしたし、“悪夢”という言葉はゆきむら。さんが作詞した楽曲にもたびたび登場しますよね。
ゆきむら。:自分は予期せぬところで世間から後ろ指を差されて、結構「人としてどうなの」と言われて炎上するんです。そういう時、自分がどう弁解しても世間はあまり興味を示してくれなくて「頭おかしいよね」「キモいよね」のひと言でまとめられてしまう。活動してると「いつまで弁解し続けなきゃいけないんだろう」っていう感覚がエンドレスに感じるんです。それが死ぬまで終わらない、まさに悪夢だなって。
ーー他者からの理解されなさや生きづらさがゆきむら。さんにとっての悪夢だと。
ゆきむら。:そう。俺たちずっと生きづらいじゃんっていう。たぶん棺桶に入るまで悩みは尽きないと思うから。
ーー1曲目の「天涯」は“空のはて”という意味の言葉で、アルバムタイトルにも通じる世界観の楽曲だと思いました。
ゆきむら。:作詞作曲した渡辺翔さんにはわりと命乞いのように、「僕変わりたいんです。ゆきむら。でありたいんですけど、ゆきむら。の中でさらなる可能性を披露したいんです」と話して作ってもらいました。カウンセリングじゃないですけど、そういったいろんなお話の中で渡辺さんが感じ取った、渡辺さんなりの僕のイメージが曲になってます。「自分って周りからはこう見えてるんだ」と思いつつ、でも曲の中の自分に追いつかなきゃとも思ったりしました。悲しいんだけどどこか背中を押されるような、生きていこうって思える曲ですね。
ーー一方で、今作でゆきむら。さんが作詞した「AI」では“愛”という言葉がキーワードになっていますね。
ゆきむら。:作曲したSakuさんの仮歌を聴いた時、最初は恋愛をテーマに書こうと思って、それこそリスナーを相手にいろんな言葉選びをしたんですけど、なんか「綺麗事かも」と思い始めたら全然筆が乗らなくなってしまって。それで「愛って一番与えなきゃいけない相手は自分なのかもしれない」と思ったんです。自分を愛せるから他人を愛せる。自分だけは自分をいつも抱きしめていたい。そういう思いを込めて書きました。だからどこか孤独ではあるんですけど、後半は独りよがりでいいやっていう感じで、自分への餞として自分が死んだ時にこの曲がかかったら満足という気持ちで、自分に向けての言葉を綴ってます。
ーーゆきむら。さんにとって、いい歌詞とはどんなものでしょうか?
ゆきむら。:輪郭をなぞってて答えがないものですね。聴くシーンやその時のメンタルによって解釈が変わったり、聴かせる相手によっていろんな汲み取り方ができる歌詞は魅力的だと思います。答えが分かっちゃうとそういうふうに受け取らなきゃいけない。
ーー自分で作詞する時もそれを意識している?
ゆきむら。:はい。「ゆきむら。が言ったからこうなんだ」ではなくて、俺が言ったことも正しいし、みんなが受け取ったことも全部正しい。だから誰かと解釈が違っても安心してほしくて、「AI」もライブで披露した時に自分に向けて聴いてほしい。自分なりの落とし込みがこの曲の正解だと思ってます。
ZONEのMIYUが理想の歌声
ーー今作はボカロ曲のカバーも多いですよね。幅広い時代のボカロ作品が選曲されてますが、どういった基準で選びましたか?
ゆきむら。:「え?あぁ、そう。」「虎視眈々」「ヒバナ」のあたりは、リスナーさんに歌ってほしいと思われてるものです。「ヒバナ」以外ははっきりとした音源化をしてなくて、「お前らが聴きたかったのはこれでしょ」っていう答えを出してあげた感じですね。色っぽくて、かっこいいセクシーな自分を見せることができる曲です。
ーーファンが求める“ゆきむら。像”がその3曲に表れてる。
ゆきむら。:そうです。逆に「ロミオとシンデレラ」に関しては、檻の中の可憐な少女のようなイメージの作品なので、アイドルになりたかった頃の昔の気持ちを引っ張り出して、「私には囚われた少女の一面もあるの」っていう気持ちで選びました。「Calc.」は昔から大好きで、それこそメイド時代にお店の特設ステージでお客さんに披露してた思い出の一曲です。「ハウトゥー世界征服」は、ただ好き。平成の時代に聴いてもグッときたけど、令和になった今聴いたほうがグッとくるかもと思って、入れさせていただきました。
ーーそういったカバー曲を歌う時は、どんなことを意識して歌いますか?
ゆきむら。:できるだけ本家のリスペクトはしつつ、そこに自分がいかに陶酔できるかを考えてます。酔えるまで入り込みたい。例えば「ロミシン」だったら、「俺のこの繊細な声を聴いてどうだ! ちゃんとこういう一面もあるんだぞ」と思いながら、めちゃくちゃ歌の主人公になり切ります。自分じゃない自分になりたいから歌ってるような感覚です。
ーーある種の変身願望のような。
ゆきむら。:そうそう。いろんなレッテルや固定概念がついちゃったので、「これ本当にゆきむら。が歌ってるの?」って思われたくて、透き通った雰囲気やぶりぶりの可愛いアイドルだったり、逆に超かっこいいアダルトな男性を想像したりしながら歌ってます。
ーーそういう意味でもYOASOBI「アイドル」での表現力には驚かされました。それこそ昔アイドルになりたかったゆきむら。さんが全開で出てますよね。
ゆきむら。:ありがとうございます。「ここで出さなきゃいつ出すんだよ」って思いながら歌いました(笑)。「ゆきむら。ってこういうのアリなの?」って思われると思うんですけど、ライブで披露した時もすごく盛り上がったので、いいギャップとして捉えてもらえると思います。
ーーカバー曲の中で絶対に外せなかった作品はどれでしょう?
ゆきむら。:すっごく難しい。でもそれで言うとボーナストラックに入れたZONEの「secret base 〜君がくれたもの〜」かもしれない。初めてZONEのボーカルのMIYUさんの声を聴いた時に「なんだこの子」って思ったんです。録音当時は自分と同じくらいの年齢だったはずなのに、クールビューティーで、透き通ってるけど軽くない。そこから「MIYUになりたい」と思って、ずっとあの声を研究し続けました。高いキーを歌ってるのに媚びてなくて、嫌味がない。聴くと澄み渡る。どういうパワーを持ってるんだろうって。声真似までしてかなり研究したアーティストさんです。アルバムを発売する季節は冬だけど、自分の原点のひとつでもあるZONEなら、みんな絶対に知ってるので、譲れない一曲でした。
ーーバンドをやろうとは思いませんでしたか?
ゆきむら。:ありました。中学生でイキってた時期に親にねだってギターを買ってもらったはいいものの、やらず。結局、歌で誰かにちやほやされるのが好きだったんですね。