ゆきむら。「泥水啜ってでも這い上がっていきたい」 葛藤の1年、ゼロからの再スタートを誓う

ゆきむら。ファンに再起を誓う

 ゆきむら。が初の全国流通アルバム『- Never ending Nightmare-†』をリリースした。

【ゆきむら。1stアルバム】- Never ending Nightmare -†【全曲クロスフェード】

 今作は「ロミオとシンデレラ」や「え?あぁ、そう。」「ハウトゥー世界征服」といった人気ボカロ曲のカバーをはじめ、さまざまなアニソン〜J-POP作品を手がける作曲家の渡辺翔が制作した「天涯」や、数多くのハロプロ楽曲に携わる作曲家の大久保薫と作詞家の児玉雨子がタッグを組んだ「愛未遂ジェーン・ドゥ」、ゲームミュージック界で絶大な人気を誇るヒゲドライバーが提供した「反逆ノノロシ」など、豪華な制作陣が参加したオリジナル楽曲も収録。2011年より歌い手として活動してきたゆきむら。の多彩な表現力が楽しめる一枚に仕上がっている。

 リスナーの存在が活動を続けられる理由だと語るゆきむら。は、このアルバムを自身の「名刺」であり、ファンから受け取った「プレゼント」とも表現する。そのファン思いの姿勢こそが人気の秘訣なのかもしれない。そんなゆきむら。に今作に込めた思いを聞いた。(荻原梓)

アイドルへの憧憬。メイドカフェを経て歌い手へ

ーーアルバムが完成した今の率直な思いを教えてください。

ゆきむら。:自分を表す名刺の一枚が今までなかったのでそれがやっと完成したという気持ちと、オリジナル作品から好きなものまで詰め込むことができて、しかも全国流通なのでひとつ夢が叶ったという感じで嬉しいです。

ーー今までもアルバムという形のものは出していましたが、今作が1stアルバムという位置付けなのはどうしてですか?

ゆきむら。:初の全国流通というのが自分の中で大きかったです。今までは自分のプラットホームの中で、ファンの方に喜んでもらえるようにと思ってボカロのカバーを収録したり、歌い方もファンの期待に応えるようなものを徹底してました。でも全国流通となったら他のアーティストさんと一緒に店頭に並ぶので、誰に聴かせても恥じのない一枚にしたかった。「ゆきむら。ってどんな人なんだろう」とか「こういう声も出せるんだ」と思ってもらって、歌い手というよりはひとりのアーティストという括りで見ていただけたら嬉しいです。

ーーそもそもゆきむら。さんが歌い手として活動を始めたのはなぜですか?

ゆきむら。:最初はニコニコ動画で生主をやってたんですけど、自分は本当はアイドルになりたくて枠内で歌を歌ってたりしたんです。でも配信が好きな方ってトークを聞きに来てる人が多いから、喋ってほしい、面白いことしてほしいという人が多くて、あまりちやほやされなかったんですね。その時の自分は結構イジられキャラだったのもあって、なんとなく芸人っぽくなってる自分がいて。それはそれでエンタメとしてはよかったんですけど、自分のやりたいことってもっと真面目に歌を聴いてほしいことだなと思ったんです。そんな芸人扱いから逸脱したいと思ってた時に、ニコニコ動画で歌い手という存在を見つけて、「何このアイドルみたいなキラキラしてる人たち!」と思って。だから歌い手を始めた最初の目的は自分を蔑まずに見てほしいという承認欲求だったかもしれないです。そこから生主兼歌い手でやってきて、今でも配信は続けつつ歌やりつつというスタイルで活動してます。

ーー“脱イジられキャラ”という意識がスタートだったと。アイドルはもともと好きだったんですか?

ゆきむら。:小学生の時にハロプロさんに憧れてました。メイドカフェで働きながら30席くらいの店内でミニライブをしたり、ビラを配って地域のフェスに出たりしてたんですよ。

ーー結構本格的だったんですね。

ゆきむら。:そうなんです。でも気づいたらバイトとアイドルの両立であっという間に20歳になっちゃって諦めました。そういう10〜20代を過ごして、じゃあアイドルではないことで表現できるとしたらと考えた時に、歌い手という道があったんです。

ーーゆきむら。さんが歌い手を始めた2011年頃はまだ歌い手もボカロもコアなネットカルチャーだったと思いますが、今ではJ-POPの中心と言っていいほどメインストリームに成長しましたよね。初期から活動しているゆきむら。さんはどう感じてますか?

ゆきむら。:自分の推してる歌い手さんたちがどんどんプロになってて焦りますね。ニコニコ動画で好き勝手わちゃわちゃしてたあの自由な感じが、今では上手くて当たり前、顔かっこよくて当たり前の世界。ボーダーが上がってるので自分の中では焦りを感じてます。ただ、自分は今いろんなご縁があってこういうプロっぽいことをさせてもらってますけど、自分のファンには「(ゆきむら。は)遠い存在になった」と思ってほしくない。たぶん自分だったらそう感じてしまうだろうから、もどかしいですね。

ーー当時のゆきむら。さんの周りにいた歌い手たちは今でも活動を続けてますか?

ゆきむら。:いろんな人がいましたね。人によっては進路を優先して大学に進学した人もいるし、逆に大学を辞めてまでやってる人もいました。スカイプとかで仲のいい歌い手と話してる時に、将来進む道に歌を入れるか入れないかを話し合ったことがあって、自分も胸に手を当てて「自分は大丈夫かな?」と不安になることはありました。そういう意味では、界隈からいなくなった友達も見てきてるし、残って踏ん張ってる友達も見てきてる。だからこそ、この道を選んだからにはそれ相応の結果を出さないと親にも申し訳ない、なんて思ったりしますね。

ーーそうやって周りの仲間が諦めたりプロとして活躍していく中で、ゆきむら。さんがここまで続けられた理由は何でしょう?

ゆきむら。:歌は正直カラオケで歌えばいいので、この活動を続けたいと思えているのはリスナーさんの声があるからです。自分がわりと社会に抗って生きてきたり、コンプレックスを感じながら生きてきたので、リスナーのみんなはその部分に共感してくれた仲間みたいに思ってます。その子たちに「辞めないで」とか「ゆきむら。がそこにいてくれないと」って言われると、誰かのためになるならっていう気持ちになります。活動を続けられてるのはその一心かもしれない。リスナーがいなかったらすぐ辞めてたと思います。

ーーゆきむら。さんの存在を求めてくれてるリスナーがいるからここまで来れた。

ゆきむら。:ある時、不登校の子の親御さんに感謝されたこともありました。「あなたの活動スタンスは親としては正直どうかと思います。でもうちの子があなたの言葉を聞いて学校に行くようになったから、あなたには感謝してるわよ」って。

ーーすごい。更生させたんですね。

ゆきむら。:交流会にお母さんと一緒に挨拶しに来てくれる子とかもいて、届けてる人たちの家庭環境や親御さんとの関係とかも見えてくるようになりました。だから届けがいがあるなって。自分のしてることは独りよがりじゃなかったのかもって思えてきたんです。

ーーある種の承認欲求から始まったものが、いつの間にか人助けになっていた。

ゆきむら。:人助けなんて烏滸がましいですけど、事実そういう声が多いんです。それがこの活動の一番のやりがいポイントかもしれないですね。

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