連載『lit!』第128回:ケンドリック・ラマーから千葉雄喜まで 2024年はフッドに根差したヒップホップが活性化
千葉雄喜、MIKADO、Watson……フッドに根差した国内シーンの逸曲
一方、国内シーンのトピックはやはり千葉雄喜「チーム友達」だろう。2月にリリースされ、グローバルな勢いで広がっていったこの曲は、国内ヒップホップシーンにとどまらず、今年自体を象徴する1曲である。実際、私自身、今年クラブやライブで観た海外のDJたちが、この曲を流している場面に遭遇することも非常に多かった。この曲のグローバルへの波及は凄まじく、まさに“現象”と言えるものであったが、同時に本作が携えるローカルミュージックとしての意味合いも重要なことのように思える。
もともと、千葉雄喜と距離の近かったJin Doggが仲間内に向けて使っていた言葉が由来だという「チーム友達」は、内輪の言葉、スラングが波及した楽曲である。そういった内的な言葉が、様々な場所に感染するように拡大していくのも、フッドに根差したヒップホップらしい動きの一つである。本作のRemixバージョンを詰め込んだアルバム『チーム友達 (The Remixes)』は、「青森Remix」や「九州Remix」「東海Remix」という風に、国内シーンの点在するローカルを取り入れたアルバムになっていおり、この曲においてローカル性がどれだけ重要なのかを象徴する作品になっていた。
これは、例えば身内のスラングを派生させていくMIKADO「言った!!」(これもまた今年の国内シーンを象徴する楽曲であろう)に通ずるものでもある。同時に、和歌山出身のMIKADO「Syachi」、徳島出身のWatson「阿波弁」など、フッドに根差した逸曲の数々も記憶に残る。また、アンダーグラウンドシーンでは、横須賀を拠点とするYOKO SQUADのような若手クルーの存在をはじめ、肥大化した産業に吸収されまいと場所に軸足を置きながら、各々が精力的に活動し、音楽を拡張させていこうとする動きも際立った(加えておくと、こういった若手アーティストの素晴らしいところは、重々しさとは無縁で、堅苦しくもなく偉そうでもない点だ。まさに遊びの延長のような音楽の身軽な在り方もヒップホップ的である)。
ここに挙げきれなかった作品でも、ベテランか若手か、ヒットしたかどうかに関わらず、ヒップホップ産業の存在を見つめながら、本来的にヒップホップ音楽であることを守り抜く作品は多くあった。当然、これらの今年を象徴する楽曲やアーティストがもたらす“ニューモラル”は、ヒップホップカルチャーにとって普遍的なものだ。かつてネルソン・ジョージも説明していた通り、ラップは一つの場所から、各地域に、そして各国に根づいていった音楽であるが、産業化していけば自ずと、そのスペクタクルに飲み込まれてしまうものが確実にある。
つまり、数字だらけの社会の中で、それぞれ逡巡を抱えながら、音楽の意義を見出していくのだ。ルーツへの意識、仲間の存在、ローカルの連帯……今年のシーンにおける、こういった楽曲群やアーティストたちの存在は、すっかりフッドや仲間の存在を忘れてしまった人たち、また、数字を数え続けて金に変えるだけの世の中に対し、中指を立てるのをやめてしまった人たちに、突き刺さるものだったのではないだろうか。突き刺さっていると信じたい。
〈みんな騙されるな数字〉〈信用してない数字〉(MIKADO「Drugbaby2 (PURE)」)
※1:https://realsound.jp/2024/02/post-1582176.html
※2:https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/37710
※3:https://www.billboard.com/music/rb-hip-hop/snoop-dogg-kendrick-lamar-not-like-us-unified-the-west-1235834172/
※4:https://pitchfork.com/reviews/albums/kendrick-lamar-gnx/
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