石崎ひゅーいが孤独な夜に寄り添う Vaundy「僕は今日も」、藤井 風「旅路」…カバーアルバムで光る選曲の妙
石崎ひゅーいが、初のカバーアルバム『night milk』を11月27日にリリースした。
石崎はデビュー翌年の2013年11月7日より、インターネットラジオ番組『ナイトミルク』をスタート。レギュラーゲストを務めるのは、デビュー前から石崎の楽曲制作に携わり続けている音楽プロデューサーのトオミヨウ。この番組は、石崎とトオミが部屋で2人で話しているのをこっそり聞いているようなトークパート、また、トオミによるローズピアノの伴奏に合わせて石崎がカバー曲を1曲披露するパートによって構成されている。現在は、石崎のオフィシャルYouTubeにて毎月1日18時に更新されている。
これまで同番組では不定期でライブイベントを開催してきたが、この度満を持して石崎のカバー曲の音源化が実現した。藤井 風「旅路」、Aimer「蝶々結び」、Vaundy「僕は今日も」、阿部芙蓉美「希望のうた」、Mrs. GREEN APPLE「点描の唄(feat. 井上苑子)」、清 竜人「痛いよ」、アイナ・ジ・エンド「アイコトバ」、平井堅「ノンフィクション」、森山直太朗「愛し君へ」のカバーが収録され、全9曲のアレンジをトオミが手がけている。
石崎は、初のカバーアルバム『night milk』について、こうコメントしている。
「誰かの声が聴きたくなるそんな夜に、その誰かになれたら良いなと思って、トオミさんと一緒に始めたラジオ番組。
数えきれないほど素敵な曲と出会い、カバーさせてもらいました。
みんながくれた沢山のリクエストと色々な想いのおかげで初のカバーアルバムを作ることができました。
また、この一枚を手に、ナイトミルクの集いをしよう。
いつか星空の下で、そこを目指して。いつもありがとうね。」(※1)
このコメントの冒頭で、番組『ナイトミルク』に込められた想いについて、“誰かの声が聴きたくなるそんな夜に、その誰かになれたら良いなと思って”と語られているように、今回のカバーアルバム『night milk』も、まさにそんな作品になっている。
まず、一人ひとりのリスナーの“夜"に優しく寄り添うような選曲が素晴らしい。たとえば、Vaundy「僕は今日も」は、Vaundyの楽曲の中では珍しく彼自身のパーソナルな心情が滲むナンバーである。自らの胸の内を告白していくかのような内省的な同曲は、“夜"という時間帯と非常にマッチするし、何より、シンガーソングライターとしての石崎の姿が重なるような瞬間が何度もある。(特に、歌い出しの〈母さんが言ってたんだ〉という一節にハッとさせられた石崎のファンは多いと思う。)また、清 竜人「痛いよ」に滲む切実な感傷は、一人ひとりの孤独な“夜"に寄り添うナンバーとしてこの上なく大きな役割を果たしているように思う。
それぞれの曲におけるトオミのアレンジも冴え渡っており、Mrs. GREEN APPLE「点描の唄(feat. 井上苑子)」の原曲は次第にドラマチックな盛り上がりをみせていくのに対して、今回のカバーでは、サウンドの要素をミニマムに絞りつつ、石崎の歌唱をもってドラマチックさを表現する仕上がりに。その他の曲においても、一人で“夜"を過ごす時に思わず求めたくなるような、親密で温かな手触りのサウンドが光っている。
そして何より特筆すべきは、石崎のシンガーとしての魅力がこれまでにない形で浮き彫りになり、新しい輝きを得ていることだろう。彼はこれまでの10年以上にわたる活動の中で、自身の作品を次々とリリースしながら、山下智久や私立恵比寿中学をはじめとする他のアーティストへの楽曲提供にも挑戦してきた。その中でも特に、「さよならエレジー」「虹」をはじめとする菅田将暉とのコラボレーションの数々は、石崎が誇るソングライティングの才能が広く世間へ知れ渡るきっかけとなったと言える。一方で、今回のカバー曲を通して伝わってくるのは、石崎の“純粋なシンガー”としての姿であり、歌うことに徹するその姿は、いつものシンガーソングライターとしての姿とは似て非なる新鮮なものであるように思う。