eill、月9ドラマ『嘘解きレトリック』主題歌としての相性を読む 「革命前夜」は変化の時を迎えた人にこそ聴いてほしい一曲
嘘を聞き分けることができる能力のせいで、周囲から“バケモノ”だと疎まれ居場所がなくなってしまった鹿乃子(松本穂香)と鋭い観察眼を持つ貧乏探偵の左右馬(鈴鹿央士)のバディが昭和初期を舞台に難事件を解決していく月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)。
奇特な能力のせいで村八分にされ、これ以上母親に迷惑をかけるわけにはいかないと家を出ることに決めた鹿乃子は、地元を離れて新しい街に移る。しかしいくら場所を変えたって「人が集まるところに嘘がある」のは変わらないことに気づいてしまった彼女の心の声が印象的だが、そんな彼女にも心から寛げる空間が見つかる。働き口も見つからず空腹のあまり倒れてしまった彼女を左右馬と警官の端崎(味方良介)が運び込んだお食事処「くら田」だ。気の良い夫婦が営む家庭的な料理屋が出す心のこもった湯気いっぱいのあったかい食事と常連同士のたわいもない会話には嘘がない。
さらに、左右馬はまだ会って間もない鹿乃子の嘘を聞き分けられる能力について知ったとて疑ったり不気味がることもなく、彼女の言葉を信じ危険を顧みず火の粉の中に飛び込む。そしてこの彼女の能力を「探偵として素晴らしく便利」だと言って探偵助手にスカウトする。
本作の主題歌はeillの新曲「革命前夜」だが、全体的にアップテンポで疾走感ある始まりながらも抑え気味のトーンはタイトル通り革命前、クライマックス前の胸騒ぎや静かな興奮を感じさせる。まさに左右馬との出会いによって半信半疑ながらも自分の力が周囲に役立つ可能性もあることに気づき始めた鹿乃子の心情の変化と一抹の戸惑いが表現されていて、彼女自身が自分の心の内や本音を見つけようと迷いながら駆け出しているようにも聴こえる。「この楽曲は、鹿乃子ちゃんの勇敢な後ろ姿から浮かんできました」(※1)とeill本人が明かしている通り、鹿乃子が自分自身の能力や周囲を信じてもう一歩踏み込もう、はみ出そうとすることで世界が大きく動き出し好転し始める気配や予感に満ちている。
第1話から、嘘をついている男の後を草履を脱いで追いかけていく鹿乃子の様子や、ほんの出来心から発してしまった小さな嘘で悪者にされてしまう誰かの存在を見過ごせず声を上げようとする彼女の「勇気」が物語を牽引していたのが思い出される。周りから理解されないことや怖がられることに落胆したり心閉ざしたりするばかりでなく、自分自身を信じて外部に心開いて働きかけていこうとする鹿乃子のまさに“自分改革”中の勇姿が「革命前夜」にリンクする。