KREVA、『Project K』に凝縮された時代の必然性 AI技術を駆使した制作、環境の変化を経た今の心境に迫る

KREVAが約3年半ぶりの最新アルバム『Project K』をリリースした。新作はラッパーとしての彼の真骨頂を見せるような1枚だ。全11曲で30分ーーとても濃厚な、エネルギーに満ちた楽曲が並んでいる。ソロデビュー20周年のアニバーサリーイヤーを迎え、事務所からの独立など大きな環境の変化を経てきたKREVA。新作にはトラックメイカーとしての新たな挑戦も結実しているという。インタビューでは生成AI技術を駆使した制作手法など本作の裏側を語ってもらった。
また、KREVAは昨年末に闘病生活を続けてきた母と死別したことを明かしている。インタビューの終盤では、そのことについても踏み込んで話を聞かせてもらった。(柴那典)
制作の支えとなった生成AI
――アルバム、聴かせていただきました。非常に濃度が高く、切実さと時代の必然性がある。とても質量のあるアルバムという感じがしました。出来上がっての最初の実感はどういうものでしたか?
KREVA:今「質量がある」って言ってくれたけど、実際は11曲で30分で、そこは自分でもびっくりしました。人生で一番くらい頑張って作ったし、短くしようとも思ってなかったんです。やりたいこと、必要なことは全部やろうと思って、でも出来上がったら11曲で30分だった。そこにちょっと驚きはあったけど、それは時代の必然性だったのかな、と。自分が欲しいものと時代の空気感がマッチしたのかなとは思います。
――今回のアルバムを作るにあたって、コンセプトや見取り図みたいなものはありましたか?
KREVA:なかったですね。とにかくトラックはいつも通りたくさん作っていて。その中で今回のアルバムに自分がまとめたいと思うものを丁寧に選んでいって。足りなかったら人に頼む、今回はBACHLOGICでした。そういう形で完成させました。

――昨年11月にはシングル『Forever Student』がリリースされましたが、その時点ではその曲を軸にしたアルバムのコンセプトがあったんですよね。
KREVA:『Forever Student』というタイトルのアルバムにしようと最初は思っていました。すべてに学びがあるという。でも曲が先に出て、それがタイトルのアルバムが出たとしても、自分だったらあまり聴きたいとは思えなかった。あとは、アルバム全体に散りばめようと思っていたアイデアを全部「Forever Student」1曲に閉じ込めたから、もういいかなって。そこからは一つひとつ確実に作っていく方向に切り替えました。
――曲を作っていく中で、何かに導かれるような感覚はありましたか?
KREVA:今回はAIをだいぶ使っているんです。それは本当に支えになりましたね。19歳でデビューして30年近くやってきて、言ってしまえばトラックに関してはやろうと思えば作れるんです。そんな制作環境の中で、もっといいものを出したいという時に求める偶発性、クリエイティビティを刺激してくれるものがAIで作り出すものにあった。それはすごく助けになりました。
――以前の取材でも語っていましたが(※1)、KREVAさんのトラックメイカーとしてのヒストリーを振り返ると、新しい機材を導入した時にクリエイティビティの扉が開くということが度々ありましたよね。たとえばMPC4000を導入した時や、シンセサイザー『OASYS』を導入してきたようなタイミングがあった。今回のAIはそれに匹敵する、新しい扉が開いた感じがあったと。
KREVA:ありました。ここのところ、音楽制作におけるプラグインのAI化はすごく進んでいて。トラックごとにAIがいろんな音の処理をしてくれるようになっているんです。たとえば、今までは人間がノイズを波形で見てカットしたり繋ぎ直したりしてたんだけど、それを自動で判別してくれる。そういう音の処理に関しては今回のアルバム制作の前からめちゃくちゃ使っていたんですが、今回はさらに使うようになった。プラス、生成AIを使うようになりましたね。
――生成AIをどんなふうに使ったんでしょう?
KREVA:生成AIで作った曲を自分のものとしてリリースするんじゃなくて、自分がサンプリングする素材を生成AIで作ったら無敵なんじゃないかという発想は最初からありました。プロンプトを書いてみてサンプリングしたいものを出したり、あえて日本語で考えたプロンプトをAIに翻訳させてみたりとか。そういうガチャ的な要素も入れました。

――著作権的な問題や許諾でサンプリングが難しくなったり、サブスク型のサンプル音源のサービスが出てきたりと、サンプリングにまつわる状況っていろいろと変わってきたと思うんですけれど、新しい段階に入った感じがしますね。
KREVA:そうですね。それにはだいぶ楽しませてもらいました。
――生成AIで作った音源をサンプリングするとなると、今までにないスキルが問われると思うんですが、そこについてはどうでしょう?
KREVA:こういうテンポがいいとか、こういうジャンルがいいとか、この曲はこういうサンプルで成り立ってるとか、そういう知識は大事だと思いますね。具体的な話で言うと、「口から今、心。」っていう曲の中でオールドスクールヒップホップ的なフレーズをサンプリングして使っているんだけど、それは生成AIで作ってます。BACHLOGICのトラックには「こんな感じでここにサンプルを入れたいです」っていうリファレンスとしてオールドスクールヒップホップの曲をサンプリングしたものが入ってたんですけど、それがあると、結局それがよくなっちゃうんですよね。ただ、今までだったら、それを使おうと思ったらクリアランスをとらないといけない。期日に間に合わなかったり、そもそも使わせてくれないとか、そういう問題で無理になったりするから。じゃあAIでそういうオールドスクールヒップホップみたいな曲を作ろうと。そうなった時に、1989年と1990年のヒップホップって全然違うし、1990年と1991年、1991年と1992年の雰囲気もだいぶ違うんです。その辺の知識を持ってるかどうかは、プロンプトを書くにあたっては重要な気がしました。
――音楽ジャンルやその歴史に対しての深い知識が必要になってくる。
KREVA:もちろん、もしそういう知識がなくても「こんな感じのヒップホップ」っていうのをザクッと入れて、そこからガチャ的に引き続けるって方法もあると思うし、そこから生まれてくる面白さもあると思う。で、それをサンプリングしてチョップフリップする、切って組み替えるってことに関して俺はめちゃくちゃ得意だから。
――「口から今、心。」以外でも生成AIを使った曲はありますか?
KREVA:「Knock」という曲ではいろんな人がコーラスを歌ってるんだけど、それは全部AIなんです。女性だったり、男性の老人だったり、幼い子供だったり、パンクロック歌手みたいなダミ声のヤツだったり、1人1人にステファンとかジャスミンとか名前がついていて。それを15人分選んでみんなで歌った感じにして、真ん中に自分を置くとか、そういう使い方もしてますね。「New Phase」に関しては、こんなサンプルのネタが欲しいっていうプロンプトを書きました。たとえば“メロウ”“メランコリック”とか“BPM under 80”とか、あとは“ソウル”とか“ジャズ”だったりのジャンルを入れて“インストゥルメンタル”と指定して。で、出てきたサンプルを切って貼って曲に落とし込む。そういうこともやっています。
――曲作りのやり方はかなり変わりますね。
KREVA:今は本当に出始めの状態で、使ってる生成AIのサイトもベータ版だし、音質もそこまでよくはないけど、それも含めて面白いかな、と自分は思ってます。