『山人音楽祭 2024』、G-FREAK FACTORYが懸命に灯した“炎”の意味 熱狂と笑いが新たな希望となった2日間

『山人音楽祭 2024』総括レポート

 2024年9月21日・22日、ついに『山人音楽祭』が完全復活を遂げた。グリーンドーム(日本トーター グリーンドーム前橋)に帰還した昨年を経て、今年は妙義ステージ、MAEBASHI PARK PARTY(フードエリアやキッズエリア)など、昨年はオープンできていなかった屋外エリアまでが復活。コロナ禍以前の『山人音楽祭』本来の姿が戻ってきた。G-FREAK FACTORYの音楽を形作っている、群馬の山、空、川といった自然のエネルギーを肌で感じながら音楽に身を委ねられるのは、やはり至高の喜び。とりわけ、巨大な山々の風景をバックに、心地よい風や川の流れを感じられる妙義ステージは、上州弾語組合、山人MCバトル、ライブゾーン(TOSHI-LOW&茂木洋晃)……といったライブで賑わっており、ラインナップを見ていても、ローカルな人と人との繋がりがこのフェスを成り立たせているのだと改めて実感することができた。

壮観なラインナップ 初日のG-FREAKは燃え盛るようなステージに

 完全体となった『山人』のカムバックに相応しく、初日には強力なラインナップが揃った。筆頭はThe BONEZとDragon Ash。現在進行形で手を取り合いながら互いの歩みを祝福し、ロック史に新たな“邂逅”の歴史を刻んでいる2組である。The BONEZは「Straight Up feat. Kj」でKj(Dragon Ash/Vo/Gt)を呼び込んで〈Hateよりもっと手繋げ〉と歌い、ラストは「SUNTOWN」で今この瞬間を生きる喜びを爆発させた。Dragon Ashは「Fantasista」でJESSE(The BONEZ/Vo/Gt)を呼び込んで強烈なエネルギーを生み出し、「New Era」では“誰のものでもない自分だけの楽しみ方”を自ら示してみせた。『山人』が広げてきた“輪”を、喪失を乗り越えてきた2バンドが熱いステージで体現したことが素晴らしかった。

The BONEZ
Dragon Ash

 そんなミクスチャーの両輪を回してきた2バンドと同時代性を帯びつつ、日本産ミクスチャーをワールドワイドなアンセムへ押し上げてきたのがMAN WITH A MISSION。「INTO THE DEEP」「Raise your flag」といったドライブ感のある楽曲でアジテートし、ダメ押しの「FLY AGAIN」までを叩き込んで狂乱のパーティ空間を作り上げた。さらにその前を飾ったのが、全出演バンドのDNAの奥深くに刻まれているであろうレジェンド、ザ・クロマニヨンズ。シンプルながらも切れ味抜群なエイトビートで圧倒しつつ、甲本ヒロト(Vo)が放った「ザ・クロマニヨンズ、おんなじような曲ばっかりだよ。どれ聴いても楽しいよ」の一言が、その音楽性の懐の深さを強烈に射抜いている気がして、無性に痺れた。

MAN WITH A MISSION
ザ・クロマニヨンズ

 ザ・クロマニヨンズにリスペクトを示しながら、“全員優勝”のメッセージを2024年にアップデートして届けたのがサンボマスター。披露された新曲「自分自身」もそうだが、ソウル/ファンク由来のフレージングで日本語パンクの歴史を塗り替えた功績といい、山口隆(Vo/Gt)のまっすぐな言葉の説得力といい、サンボマスターは本当に『山人』と相性がいい。ラウドなサウンドに独自の生活感を乗せた打首獄門同好会しかり、メロディックパンクとメタル的な美メロの融合を成し遂げたHAWAIIAN6しかり……初日の赤城ステージのタイムテーブルは、1980年代から2010年代まで、脈々と更新されてきたロック絵巻を一望できるような壮観なものだった。

サンボマスター
打首獄門同好会
HAWAIIAN6

 だが、そんな初日のトリを飾ったG-FREAK FACTORYのステージには、図らずもピリついた空気が流れた。茂木洋晃(Vo)が語気を強めたのは、初日に起きてしまった痴漢行為に対してだ。ロックフェスを生かすも殺すも参加者一人ひとりの意志次第。日々を全く違う境遇で生き抜いている多くの人たちが、爆音が鳴っている間は互いに助け合い、支え合うからこそ、ロックフェスはかけがえのない自由な遊び場になる。例に漏れず、『山人音楽祭』もそうやって信頼の歴史を積み重ねてきたはずだが、こうも簡単にその牙城が崩されたことに茂木は憤慨し、「舐められたもんだ」と感情を露わにした。その怒りは「Fire」や「ダディ・ダーリン」に乗り移る。一度灯した炎を消さないよう守り抜くことの困難さや、繋いできた平和がいとも簡単に破られてしまうことの虚しさ。怒りの先で、そんなやるせない想いが響いた。だが、ロックフェスの主催者として、何より1つのロックバンドとして、困難だからという理由で寛容な世界を諦めることなどできない。火の玉になって燃え盛った本編の後、夕暮れの先に新しい暁があると信じて、「アメイロ」を奏でたところで初日は終了した。

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)
Leo(G-FREAK FACTORY)
原田季征(G-FREAK FACTORY)
吉橋“yossy”伸之(G-FREAK FACTORY)

 そして迎えた2日目。シリアスなムードに満ちていた『山人』を救ったのは、“笑い”だったかもしれない。

 その口火を切ったのは、コミックバンドの最高峰・四星球。マイナスな感情をどうにかプラスに転換しようとするエネルギーがロックを生むーーならば、「我々、音楽をやるつもりはございません。皆さんの笑い声を音楽にしに来ました!」「皆さんの憂鬱、笑い殺します!」と宣言した北島康雄(Vo)の言葉が示すように、四星球にとっては笑いこそが究極のロック。謎の巨大下仁田ねぎの神輿が、段ボールで作られたUFOが、大の大人同士のスクワット対決が、激レアな“ちょんまげマン原田”(ちょんまげ姿のG-FREAK FACTORY 原田季征/Gt)の勇姿が、スクリーンに映された“どんだけマン”(どんだけマンに扮した茂木)のどアップ写真が、老若男女も生まれも育ちも飛び越えて笑いをもたらし、ほんの少しだけ日々の鬱憤を吹き飛ばす。そこに滲むのは、やはりザ・ドリフターズからの色濃い影響だ。この日出演予定だったものの、開催2日前にアキレス腱を断裂してしまい出演が叶わなかった高木ブーへのリスペクトを込めて、四星球は最後に「コミックバンド」を熱演。“全世界の共通言語=笑い”で、ロックフェスの真髄をやり抜いてみせた。

四星球

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる