『山人音楽祭 2024』、G-FREAK FACTORYが懸命に灯した“炎”の意味 熱狂と笑いが新たな希望となった2日間

『山人音楽祭 2024』総括レポート

大活躍のTOSHI-LOW、ソロステージで見せた海のような包容力

 さらに、この日もう1人の主役はやはりこの男、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)である。LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUSのステージに現れ、「Snowman」を颯爽とコーラスしたのも束の間、茂木との新たな“兄弟ユニット”・ライブゾーンですぐさま妙義ステージに出演。本家の茂木を制しながら「ダディ・ダーリン」をほぼTOSHI-LOWが独唱する形で観客の笑いを誘うと、「Pressure Drop」(Toots and the Maytals)、「ナオミの夢」(へドバとダビデ)、「スローバラード」(RCサクセション)といった1960〜70年代の名曲をゆったり披露。ラジオの公開収録でも見ているかのような、2人の緩いやり取りがたびたび笑いを生み、妙義ステージならではの心地いい光景が広がった。OAU「朝焼けの歌」も披露されたが、大きなステージでフロントマンとして前に立つ際も、距離の近いステージで流しの歌い手のように歌う際も、大切なものを慈しみ、抱きしめるようなTOSHI-LOWの芯の強さは変わらない。その振れ幅の広さであり一貫性は、BRAHMANとOAUの音楽にそのまま表れている。

LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS PLUS
ライブゾーン(TOSHI-LOW&茂木洋晃)

 TOSHI-LOWはその後、夕方の赤城ステージにもソロで登場。この日3ステージ目にして、欠席となった高木ブーの代打を務めた。姿形まで緑の“鬼”となったのは、高木ブーへのリスペクトの表れだろう。そして、「人の生き死にに関しては慣れてるつもりだったけど、俺が去年、一番“ああ……”となった人の歌を歌います」と言って歌われたThe Birthday「愛でぬりつぶせ」のカバーに、強烈に引き込まれた。もちろん、チバユウスケの歌だからというのもあるが、巨大なステージの真ん中に立ち、身一つで包容力溢れる歌を響かせるTOSHI-LOWの声そのものに強く魅了されたのだ。底知れぬ優しさ、この人がいれば大丈夫という安心感。友を弔いながらも、“今この瞬間”を美しく歌い上げる真摯な声に心が温かくなった。

TOSHI-LOW

 その後、「帰り道」(OAU)を途中まで披露したところで、いきなり曲が四星球「クラーク博士と僕」に変わると……「ちょっと、僕らの歌をかっこよく歌わないでもらっていいですか!」と、四星球・北島が乗り込んできた。一気に明るい空気になると、「8時だョ! 全員集合オープニング・テーマ」(ザ・ドリフターズ)に乗せて、四星球やG-FREAKの面々、極めつけは“どんだけマン”に扮したガチメイクの茂木までがステージに集結する。あまりの荒唐無稽な展開に、どよめきのような笑いが場内を包み込んだ。なるほど、四星球のライブがTOSHI-LOWソロステージへの伏線になっていたわけか。本物の“鬼”になったTOSHI-LOWと、ついに“どんだけマン”になってしまった茂木、そんな“兄弟共演”を実現させた四星球の巧妙なプロデュース力……全てに感心。何やらとんでもない『山人音楽祭』になってきた。最後は「いい湯だな(ビバノン・ロック)」(ザ・ドリフターズ)を観客も交えて合唱し、笑いの力で難局を乗り越え、入院中の高木ブーにもエールを贈った。今年の『山人』を象徴するような、すごいステージだった。

G-FREAKの名演を観て信じたくなった“熱量と手触り”

 それを受けての大トリ、2日目のG-FREAK FACTORY。前日の緊張感はまだ残っているものの、この日1日のポジティブなムードを受けて心も身体もほぐれ、本来のG-FREAKが戻ってきた感覚があった。前日の「YAMA」もそうだったが、「HARVEST」のような最新アルバム『HAZE』収録曲では、若手メンバー Leo(Dr)のビートもますますスケール感を帯びてきているし、「REAL SIGN」のような鉄板曲では原田のテクニカルなギターと吉橋“yossy”伸之(Ba)のどっしりしたベースが火を吹くようにガンガン攻めてくる。この日は早くも4曲目にして「ダディ・ダーリン」を披露し、TOSHI-LOWを招き入れて一語一句を大切に噛み締めながら、ステージに残していった。

 さらに茂木は『山人』が続いてきた感慨を丁寧に言葉にした後、地元にも若くてかっこいいバンドが出てきたことへの喜びを語った。もちろん、だからと言ってベテランはやっと休めるとか、そういうことでは全くないだろう。新たに躍り出てきたバンドに対して、楽曲で、ライブで挑戦するために、G-FREAK自身も己を磨き上げたい。そうすることで、ライブハウス全体にまた大きな炎を灯していきたい。消えてしまいそうな火を1人で必死に守るだけじゃなくて、今まさに勢いが増してきた炎を、みんなでもっと大きなものにしていこうーーそんな、1日目とはまた違う想いの込められた「Fire」が本編ラストで痺れるように鳴り響いた。時代と己に向き合い続ける茂木の魂が炸裂した名演だ。

 アンコールではNAIKA MC、ROTTENGRAFFTY N∀OKI(Vo)、10-FEET TAKUMA(Vo/Gt)らを呼び込んで「日はまだ高く」、そして大勢の出演者が“鬼”に扮した状態で再び「いい湯だな(ビバノン・ロック)」が歌われ、最後までドリフ祭りのまま大団円。この日らしい大きな笑いの渦がエンドロールを彩った瞬間だった。

 居場所を守り抜いてきたプライド、仲間と過ごしてきた時間。それらが熱狂と笑いに繋がり、素晴らしい名シーンが多数生まれた今年の『山人音楽祭』。一方、時には厳粛で緊張感溢れる場面があったことも見過ごすことはできなかった。

 TAKUMAが「喜びは倍に、悲しみは半分にできるのがライブハウス」だと叫んだように、Kjが「ライブハウスはお前らのもん」だと教えてくれたように、TETORAがベテランだらけの赤城ステージで己の誇りをぶつけたように、MOROHAが『山人』に対する悔しさや夢追い人の苦悩を吐き出したように……日常のいざこざにも、孤独や地位にも縛られることなく、感情を心置きなく解放できるのがライブハウス。だからこそ、ライブハウスへの入り口たるロックフェスがトラウマの現場になるようなことはあってはならない。痴漢なんてもっての外だ。The BONEZが歌うように、協調性を持った「New Original」の最前線がライブハウスであってほしいし、来年はG-FREAKの4人が純度100%の笑顔で終われる『山人音楽祭』であってほしい。

TETORA
10-FEET
MOROHA

 だが同時に、誰1人とて不幸になることを許さない包容力もまたライブハウスの醍醐味であり、全ての出演バンドがそれを諦めていないことが何よりの希望だ。匿名で意見が飛び交う現代にステージ上で矢面に立ち続け、何があってもオーディエンスに寄り添い、一緒に考え、行動してくれるバンドたちが『山人音楽祭』にはたくさん集っている。その姿が頼もしくて、嬉しい。今こそロックバンドに心を委ねたくなるのは、そういう信じられる熱量と手触りを与えてくれるからではないだろうか。

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