Mori Calliope、多彩な音楽文脈でホロライブを牽引 メタルからR&Bまで拡大したコラボを紐解く
Mori Calliopeの“文脈”はさらに広がっている。デビュー当初からそうだったが、さらにジャンル横断的な存在になっている。8月16日にリリースされたメジャー2ndアルバム『PHANTOMIME』を聴いての率直な印象はそういうものだった。
ホロライブEnglishに所属するVirtualアーティストであるMori Calliope。2022年にEMI Recordsからメジャーデビューを果たして以降は、様々なアーティストと交わることで表現領域を拡大してきた。ずっと真夜中でいいのに。やKERENMI(蔦谷好位置)らと旺盛なコラボを繰り広げ、ホロライブやVTuberのシーンにとどまらない領域でのリスナーを獲得してきた。
ニューアルバム『PHANTOMIME』はそういうキャリアの先で、数々の新たなチャレンジにトライした1枚。2022年12月にリリースされたメジャー1stアルバム『SINDERELLA』と2023年8月リリースの『JIGOKU 6』はそれぞれ“罪”や“地獄”をテーマにしたコンセプチュアルな作品で、“死神ラッパー”としてのキャラクターを活かしたダークな世界観を見せてきたが、そのあたりもリブランディングされている感がある。
本稿では『PHANTOMIME』の収録曲を紐解きつつ、Mori Calliopeの今の音楽的な“文脈”を解説したい。
まず一聴して気づくのはメタル/ヘヴィミュージックへのさらなる接近だ。M2「SNEAKING revenge with Lotus Juice」、M4「Overkill」、M5「Cult Following」など、アルバム前半には荒々しいディストーションギターのサウンドを活かしたパワフルなナンバーが並ぶ。中でもYuki Tsujimura、MEG(MEGMETAL)が作編曲を手掛け、Tsujimuraが作詞にも参加した「Overkill」はハイスピードなドラムとヘヴィなリフで駆け抜けるメタル濃度の高い1曲。イギリスのエレクトロニックロックデュオ WARGASMが作編曲を手掛け、作詞とプロデュースにも参加した「Cult Following」もヘヴィなギターサウンドがポイントになっている。力強いシャウトを持ち味にするMori Calliopeのボーカルに最も合っているスタイルとも言えるのではないだろうか。
また、Mori Calliopeにとって新たな代表曲となりそうなポテンシャルを持っているのがM3「Go-Getters」。TVアニメ『異世界スーサイド・スクワット』(TOKYO MXほか)エンディングテーマとなっている同曲は、Giga&Teddyloidが作曲を担当。これまでも「Let's End the World」でタッグを組んできたが、めまぐるしい展開と迫力の強い低音を持つエレクトロサウンドとMori Calliopeの歌声の相性はバッチリだ。
アルバムではJ-POPのシーンで活躍するアーティストとのコラボレーションもポイントになっている。冒頭を飾るのは「タイド(Mori Calliope × AI)」。作曲とプロデュースは蔦谷好位置だ(アレンジやプログラミング、演奏にも参加)。こちらもヘヴィロック寄りな重量感あるトラックなのだが、AIとのコラボによって力強くソウルフルな、そしてどちらかと言えば“陽”のパワーを持った楽曲に仕上がっている。ゴスペル風のコーラス、〈いけるとこまでいってみるだけ〉〈目の前のその壁を壊せ〉と、Mori Calliopeなりのポジティブなファイトソングとなっているのも、これまでのテイストを考えるとかなり意外だ。
またM6「DONMAI」はMAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyがプロデュース。HEY-SMITHの満(Sax)とイイカワケン(Tp)がホーン隊として参加したハードロック×エレクトロスウィングな1曲となっている。