Mori Calliope、新時代を切り拓くオルタナティブラップの旗手 ワールドワイドに広がる“逆境を乗り越える創造性”

Mori Calliope、逆境を乗り越える創造性

 その存在はオルタナティブ、そして規格外。

 VTuberのMori Calliopeが7月20日にリリースしたメジャーデビューEP『SHINIGAMI NOTE』は、世界7カ国・地域でiTunesアルバム総合チャート1位を獲得、iTunesアルバムHip-Hopチャートでは世界16カ国・地域で1位を獲得し、オリコンアルバムチャートでも9位にランクイン。きゃりーぱみゅぱみゅのデビュー時を上回る衝撃と共に、世界へと発信された。12月7日には、同作のアナログ盤も発売となる。

 ときのそら、AZKi、星街すいせいらが所属する「ホロライブプロダクション」傘下の英語圏グループ「ホロライブEnglish」に所属し、死神ラッパーとして2020年にVTuberデビュー。公式YouTubeチャンネル登録者数は210万人を超える。ゲーム実況などの配信と並行してオリジナル楽曲を配信し、10月末時点で再生数3400万回超えの「失礼しますが、RIP♡」や、Gawr Guraとのコラボ曲「Q」をはじめ、「Red」「Off With Their Heads」「end of a life」など、1000万回超えの再生数を誇る楽曲が多数。これまではホロライブのレーベル<cover corp.>からアルバム『UnAlive』などをリリースしており、昨年リリースしたEP『Your Mori.』は日米のiTunesヒップホップ/ラップアルバムチャートで1位を獲得した。

[ORIGINAL SONG] 失礼しますが、RIP♡ || “Excuse My Rudeness, But Could You Please RIP?” - Calliope Mori

 全体としてMori Calliopeの音楽は、本場のアメリカのヒップホップ/クラブミュージックのトラック上で、ダーティなラップと流麗なボーカルが縦横無尽に入り乱れ、さらに英語と日本語を自在に行き来するという、独特のテイストを持っている。海外のラップミュージックにおけるメロディやK-POPのようなテイストも感じさせながら、ふとJ-POPやボカロ曲からの文脈を感じさせる部分もあり、実にオリジナリティに溢れたメロディを奏でている。またMori Calliopeのラップの特異性は、英語と日本語のリリックを交えながら繰り出される点にあるだろう。メジャーデビュー作となったEP『SHINIGAMI NOTE』には「MERA MERA」など日本語ラップを駆使した楽曲が収録されており、日本語を巧みに操りながら、英語ラップと見事に両立させている。

 例えば、ボカロPのDECO*27が作詞・作曲し、Mori Calliopeと同じホロライブに所属するVTuber・星街すいせいとコラボしたオープニングナンバー「CapSule」。10月末現在までに560万回を超える再生数を記録しているMVは、ニューヨークを思わせるような地下鉄を舞台に、星街とラップを戦わせるクールな映像。星街の日本語とMori Calliopeの英語が韻を踏むなどの遊びもあり、DECO*27の絶妙な作詞テクニックが光っている。また、死神とは違ったストリートスタイルのファッションに身を包んでいるところも注目だ。

[ORIGINAL SONG] CapSule - Mori Calliope x 星街すいせい

 エキゾチックなメロディとパッション溢れる情熱的なビートの「MERA MERA」では、日本語の歌詞を大胆に使用し、歌詞はパーティチューン的な内容に、配信者である自身のことを重ねたダブルミーニング的な意味合いのものになった。しかし日本語がネイティブではない彼女にとって、日本語の作詞や押韻は困難を極め、作曲/プロデュースのGigaから発音や強調するワードを教わりながら、作詞を進めていった。レコーディングに関しても、普段は自宅のスタジオで収録しているそうだが、「MERA MERA」は外部のスタジオで、Gigaにリードしてもらいながら進められ、時にはGigaが実際に歌って見本を示したこともあったという(※1)。

[ORIGINAL SONG] MERA MERA - Mori Calliope

 また、日本語のインパクトが感じられる曲は、重低音のビートとシャウトするような激しいラップを聴かせる「Holy嫉妬」だろう。タイトルは、「聖なる」という意味の「Holy」と、ネガティブなイメージの多い「嫉妬」という、英語と日本語が組み合わさっているところにインパクトがあり、この言葉だけでも二重三重の意味合いが感じられる。ヘヴィな印象の言葉を使っても決して違和感がなく、むしろ彼女らしいと思えるのは、きっと死神というキャラクターがあればこそだろう。死神ラッパーという彼女の存在自体が、自身の音楽を一つに定義づけできないアンリミットなものにしている。

[ORIGINAL SONG] Holy嫉妬 - Mori Calliope

 他にも、高揚感溢れるビートと共に中毒性のあるボーカルと多彩なラップを繰り広げ、冒頭の繰り返しのメロディが癖になる「Kamouflage」。トリップホップのようなスケール感と共に、キャッチーなメロディを聴かせる「Make ‘Em Afraid」。アッパーのビートで軽快にラップを聴かせる「Let’s End the World」を収録。アグレッシブなラップと感情表現豊かなボーカルの応酬によって、死神としてのダークな面と、一人の女の子としての内面が、同時に感じられるものになっている。

[ORIGINAL SONG] Kamouflage - Mori Calliope

 ちなみにMori Calliopeは日本のラップミュージシャンからも影響を受けている。それは初回生産限定盤収録のインタビュー(「Mori Calliope behind the scenes interview DVD」)で語られているので、興味のある方は観てみてほしい。

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