a flood of circleは成長を拒否して破壊を叫ぶ 佐々木亮介、“半端者のロックンロール”で突っ走る理由

afoc佐々木亮介、半端者のロックを歌う理由

 ロックンロールの導火線に火がつき続けているバンド、a flood of circle。時代が急速に変化し、音楽のトレンドが移ろう中でも、譲れない自身の在り方を無骨な演奏に託して叫ぶ。メジャーデビューから15年で実に13作ものアルバムを世に放ってきた彼らは、ロックンロールが想起させる爆走感を誰よりも地で行っている存在だ。

 その根源にあるのが、己を焚きつけるような佐々木亮介(Vo/Gt)の言葉。世の中の大きな流れに抗い、こびりついた常識に中指を立てつつ、完璧さよりも半端者の弱さをガソリンにすることで、ロックンロールのエンジンを回してきた。〈マサムネにも カートにも なれずに死ぬんだな〉(「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」)、〈誰もが光へ飛んでいっても/俺の生き方はこれだけ〉(「虫けらの詩」)といった歌詞は愚直すぎるほどに愚直だが、だからこそa flood of circleが走った道にしか咲かない花がある。

 最新作『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』(11月6日リリース)は、結成20周年を迎える2026年に日本武道館を目指す決意が強まったことで、佐々木の想いにバンド全体が応え、それが開けたアンサンブルでリスナーの元へ届いていくような懐の深いアルバムに仕上がった。今作を皮切りにして、a flood of circleの核を形作る佐々木亮介の思考、表現の源泉に迫っていく。(信太卓実)

a flood of circle「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」trailer

結成20周年に向かって「武道館という言葉が返ってきた」

ーー昨年はa flood of circleと佐々木さんのソロ、それぞれでアルバムを出していて(『花降る空に不滅の歌を』『HARIBO IS MY GOD』)。〈気づけば結局 佐々木亮介〉(「月夜の道を俺が行く」)という歌詞もありましたし、2023年は“佐々木亮介”を表現していく年だったと思うんですけど、今回の『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』はそれ以上にバンドとしての強さが前面に出た作品だと思いました。どのようなところから構想を作っていったのでしょうか?

佐々木亮介(以下、佐々木):最初はとにかく困っていて。前作で佐々木亮介として歌うことに挑戦して、全部やり尽くしちゃったなという感じだったんですよね。で、これは最近気づいたことなんですけど、俺は音楽が好きとか以前に、とにかく働きたくないんだなと(笑)。納得できない理由で人に頭を下げて働きたくない。これはサラリーマンを馬鹿にしているんじゃなくて、ただ俺が甘えてるっていうだけなんですけど(苦笑)、少なくともそうやって生きていく限り、俺が音楽を止める理由は絶対にないなと思って。その上でバンドをどうしていこうか考えた時に、アルバムを年に1枚出すぐらいしか動機がなかったんです。でも、それだけではあまりに空っぽだから、尊敬していて、かつその人の前では自分がカッコつけそうで、甘えられないし、なめられたくもない人たちーーホリエ(アツシ/ストレイテナー)さんと後藤(正文/ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんと一緒にやって、自分をもう1回掘っていこうと。

 だけどそんな時にナベちゃん(渡邊一丘/Dr)から、「3年後、40歳になる時に今と同じ調子だったら、バンドを続けるのは無理だと思う」みたいなことを言われて。ナベちゃんとは唯一ずっと一緒にバンドをやってきたけど、生活費の面とか含めてどんなふうに生きていくのかをすごい考えてる人だと思うんですよ。まあ綺麗に言えば俺に発破をかけてくれたんだと思うんですけど(笑)。それもあってなんとなく続けるんじゃなくて、目標ができちゃったんです。3年後に武道館をやろうと。歌詞でも〈武道館 取んだ〉(「ゴールド・ディガーズ」)とか、半分ボケも入っていて面白いかなって。

ーー武道館自体は以前から言及していたと思うんですけど、大々的に掲げる新たな目標として選んだのはどうしてなんでしょう?

佐々木:正直、武道館自体には大して思い入れがないなと思ったんですよね。もちろん、誰かの武道館ライブを観るたびにいいなとは思うし、承認欲求も満たされそうだなと思うけど、もともと俺はライブハウスキッズでもないから、憧れとかロマンってほどのことでは全くなくて。お金がないと生きていけないって社会に思い込まされていたり、革ジャン=ロックンロールって思い込んでいるのと一緒で、武道館=憧れってどこかで刷り込まれているんだろうなと。

 a flood of circleを組んだのも曲が作りたかったからなんですよね。ライブはなんとなくやるものっていう感じでした。当時、古本屋で『ROCKIN'ON JAPAN』を買ってきて、後ろの方のライブスケジュールがいっぱい載っているページを見て、「ここっぽくない?」みたいに決めたのが下北沢SHELTERで、とりあえず連絡して昼の部に出させてもらったんです。その時、今の(新代田)FEVERの西村(仁志)さんに調子に乗せられたというか、「絶対武道館に行けるよ」「武道館でやった次の日にSHELTERでライブやってよ」と言われて、「じゃあそうしよう」ってなんとなく思っていたことがずっと頭に残っていて。今になってバンドをどうするか考えた時に、武道館という言葉が返ってきちゃったという。

ーー4人を束ねる何かが必要だとなった時に、武道館がもう一度降ってきたと。

佐々木:そうです。武道館なめんなよって言われそうだけど、マジでそれだなと。テツ(アオキテツ/Gt)の入院もあったから、ひょっとしたらバンドが危ないかもってナベちゃんが一番感じていたのかもしれないですけど、そこで「じゃあ、3年後武道館でしょ」っていうわかりやすいものがスコーンと出てきて、俺もみんなも「それやろう」みたいな。

【MUSIC VIDEO】ゴールド・ディガーズ - a flood of circle

「俺らの曲をロックンロールと呼ぶには言葉が多すぎる」

ーーなるほど。“武道館=憧れ”を刷り込まれているという話もありましたけど、a flood of circleってある意味“型”として受け継がれてきたロックンロールを貫いているじゃないですか。それはどうしてなんでしょう?

佐々木:でもチャック・ベリーがロックンロールだとしたら、俺らはただのJ-ROCKだなと思ってますよ。「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」ってもともと「J-ROCK」というタイトルにしてたんですよ、面白いかなと思って(笑)。変えちゃいましたけど。

ーー(笑)。

佐々木:“ロックンロール”と言ってるのは、心が疲れている時の景気づけみたいなものですね。言葉の響きも好きだし。でも「俺たちのロックンロールをやってます!」とは言えるけど、チャック・ベリーの横に置いてほしいとは思ってないです。本当はもっと意味のない言葉が入ってる音楽の方がロックンロールっぽいんだろうけど、俺らの曲はそう呼ぶには言葉が多すぎるなと思うので。

ーー「俺たちのロックンロール」って、噛み砕くとどういうものなんでしょう?

佐々木:追い込まれた時の魔法だと思っているかもしれないですね。だからなるべく“減らす”ようにしていて。語彙力やコード進行って、本を読んだり、人生経験を積んで成長したりすると増えちゃうじゃないですか。でもそれって仕事とか勉強みたいな感じで、なんか冷めるなと思っていて。俺はいかに持っているコード進行だけでできるか、やってきたことだけで言いたいことを言えるかって考えているんです。

 谷川俊太郎さんがこの間死んでしまって、すごく好きだったのでいろいろ考えてみた時に、彼も成長しちゃってるなと思ったんですよね。平易な言葉だとかよく言うけど、難しい言葉もいっぱい使ってるよなって俺は思うから。ロックミュージシャンが死んだ時も「彼なりに成長しました」とかよく書かれるけど、そんなのいい弔事じゃないですか。それが嫌なので、俺は単純な成長を拒否して、その時リアルに感じた面白いことができないかなって考えています。

ーーどうしてそう考えるようになったんでしょうか。

佐々木:一瞬の輝きとか、逆境から1つ上に行く勇気みたいなのがロックンロールだとしたら、そこからどんどん上を目指して頭良くなって、お金をいっぱい稼いで……って、自分の大事なこととあまり関係なくない? と思っていて。資本主義社会だから、みんなそっちに行くのが自然だと思っているけど、「わざわざバンドでリリースまでして打ち出そうっていう時に、そこに乗っかってどうするんだよ」みたいに思っていたんですよね。周りのみんなが向かおうとしている“成長”というコンセプトに対して「本当か?」って言う人が1人でもいてくれたら、14歳の頃の俺は嬉しいはずだろって。

 俺はスピッツが好きで、根っこにあるんですよね。成長と関係なくて、妄想爆発していて、ずっと後ろ向きで現実ですらない。そこにグッとくるから。どうやって生きていくかを考えるのは、何が好きだったのかを見ていくことでもあったので、俺は「ずっと一緒じゃん」と言われるようなことをやらなきゃダメなんです。

【MUSIC VIDEO】キャンドルソング - a flood of circle

ーー極端に言えば、デビューアルバムと遺作で同じことを歌っているのが理想だと。

佐々木:そう。かつ、成長していないけど、前と違うことをするためには何が必要かなって考えて、今回は山(にあるキャンプ場)で録ることにしたんですよ。ちょうど「キャンドルソング」のMVを撮ったのが山だったので、だったらレコーディングも山でできるじゃん! と思って。でもちょうどその時、長らく担当してくれていたレコード会社のディレクターが辞めることになって。バンドメンバーを固めていった時期から、もっと大事なところにまでやっと復活できている感覚だったけど、またこれは0からのスタートかも……と思ったんです。そこからスタッフにいろいろ我慢してもらうことも多いけど、一旦この形で走ろうって決着したのが今回のアルバムですね。

ーー「虫けらの詩」では、そうやって人が離れていく様子が歌われていますよね。

佐々木:そうですね。それがアルバムに向かう最初の曲って感じでした。

【MUSIC VIDEO】虫けらの詩 - a flood of circle

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる