経済産業省「音楽ビジネス報告書」を深読み アニメタイアップ=海外ヒットという好況への懸念

“海外ヒット”への課題と今後の取り組みに対する懸念

 こうした状況をもとに、今後の課題としてはどんなものが挙げられるか。

 レポートで指摘されているのは、日本の音楽産業におけるデジタルマーケティング人材の不足だ。配信プラットフォームやデジタルディストリビューターの出現により楽曲発表が手軽になり、流通は民主化した。結果、アーティスト自身が海外に直接楽曲を届けることが容易になった。その一方で、ヒットを生み出すためには、SNSを通じたファンエンゲージメントの形成をはじめ、レコメンドアルゴリズムや高度なデータ分析に基づくマーケティングが必須になった、とある。

 また、海外公演なども増えているが、現時点での展開事例は個別のアーティストやレーベル/プロダクションの努力と工夫によるものであり、日本全体としてまとまって展開できていない状況である、と指摘されている。そうした問題意識をもとに、政府も民間と連携し、人材育成や海外展開の支援に取り組むと書かれている。

 ただ、個人的に考えるのは、こうした取り組みが「選択と集中」になってほしくない、ということだ。

 例えば現状ではアニメとのタイアップやSNSでのバズが「海外ヒットへの最適解」に見えるかもしれない。しかし、今後もそうとは限らない。特にSNSのバズは、偶発的で自然発生的なものが主体だ。UGC(ユーザージェネレイテッド・コンテンツ/ユーザー生成コンテンツ)というのはあくまでユーザー側から立ち上がるゆえに熱量を持つものであり、ヒットを目指した何かしらの“仕掛け”が上手くいくとは限らない。

 さらに言えば、同レポートにあるように、日本の音楽文化の強みは「多様性」と「蓄積」にある。ということは、その土壌はインディペンデントなミュージシャンやクリエイターが自由に創作活動を繰り広げられる環境があってこそ豊かになる。

 「ヒットしそうなもの」や「海外で受け入れられそうなもの」をピックアップしてマーケティングの力で押し出していくことも必要かもしれないが、それだけでなく、むしろこれまでのルールや価値観では捉えきれない面白いものや格好いいものが次々と生まれ、それが“発見”される形で広まっていくことに、この先の希望があるように思う。

※1:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/musicindustry_2407meti.html
※2:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/musicindustry_houkokusyo_2407meti2.pdf
※3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000177.000022249.html
※4:https://www.billboard-japan.com/special/detail/4115

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