『気になってる人が男じゃなかった』『ふつうの軽音部』……”マンガ×バンド”の話題作が開く実在する音楽への扉

 同じ音楽だけでなく、小説やマンガ、映画など多彩なカルチャーをリファレンスとして作曲が行われることは昔からままあった。同時に、近年はその逆の事象も多い。様々な音楽をインスパイア元とし、アートやファッション、映像などの世界でも日々多彩な作品が誕生している。

 中でも直近で印象的なのは、マンガカルチャーにおける音楽関連作品の人気の高さだろう。特にバンドという題材はいつの時代もマンガ界で一定の人気を誇ってきた要素だ。しかし従来とはやや異なる特徴として、昨今話題を集める音楽マンガには、作中で明確に実在の音楽を取り扱う傾向がある。

 2022年のアニメ化から今なお話題を集め続ける『ぼっち・ざ・ろっく!』も、元はマンガ原作の作品。本作には明確にASIAN KUNG-FU GENERATIONを元とした要素が多々描かれ、それもバズ要因のひとつとなった。重ねて、いまだ映像化に至っていない最新トレンドマンガにも、実在のバンドや曲が随所に散りばめられた作品が存在する。現時点でその二大巨塔は、やはり『気になってる人が男じゃなかった』(KADOKAWA)と『ふつうの軽音部』(少年ジャンプ+)だろう。

 『気になってる人が男じゃなかった』は、元々Twitter(現X)での個人連載から人気に火がついたマンガだ。「次にくるマンガ大賞 2023」Webマンガ部門1位、「このマンガがすごい!2024」オンナ編2位などの賞レース実績に加え、作者の新井すみこはXのフォロワーが105万超えという異例の新人作家となっている。

 陰キャと陽キャ、社会的属性の違う二人の女子高生が共通の音楽趣味をきっかけに距離を縮めていく本作。作品の人気の理由のひとつは、やはり二人が共通項とする音楽だ。

 彼女たちが好むのは、NirvanaやFoo Fighters、ParamoreにTHE KILLERSといった、“令和の女子高生”の印象とはあまり結びつかない音楽ばかり。物語の転換点にも、BECKやBlack Sabbathなどの曲をセレクトした自作プレイリスト、RadioheadのカバーやRed Hot Chili Peppersの来日公演といった要素が添えられている。

 同世代とは異なる嗜好。その良さを友人に共感してもらえない疎外感。それを経て生まれる、同じ音楽を好む同志への親近感。それが二人を繋ぐ絆のもとであり、本作への大勢の支持のもとだ。

 一説によれば彼女たちが好むオルタナティブロックのジャンル定義は、「商業/大衆音楽とは一線を画したアンダーグラウンドなロック」である。その点でも、確かに本作はこれらの音楽の本質を巧みに物語へ落とし込んでおり、作者自身が持つ音楽に対する深い愛情も作品を通じて窺える。一方で、マンガ自体がここまで大きな人気を得たという点に関しては、ある意味ではややアイロニックな現象とも言えるのかもしれない。

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