ego apartment、『ku ru i』が照射する社会に潜む“静かなる怒り” 「鬱憤はかなり溜まっていると思う」

ego apartmentが発信するメッセージ

 関西発の3人組ユニット ego apartmentがニューアルバム『ku ru i』をリリースした。Dyna(Laptop/Ba)、Shu(Gt/ Vo)、Zen(Gt/ Vo)によるego apartment。トラックメイクとバンド感を融合させたサウンド、ツインボーカルによる表情豊かな歌によって早耳の音楽ファンの注目を集めている。

 前作『EGO APARTMENT』以来、約2年ぶりのフルアルバムとなる本作には、先行シングル「mad cooking machine」「pools」など12曲を収録。SF的な世界観を色濃く反映したコンセプト、オルタナ〜グランジ的な音像を取り入れた作品に。

 SFのように、フィクションを交えながら現代社会に対する痛烈なメッセージを発信する。今、ego apartmentがリスナーに投げかける音楽の真意とは。(森朋之)

違和感を代弁するのも僕たちの職業の役割

ego apartment(左からDyna、Zen、Shu)
ego apartment(左からDyna、Zen、Shu)

ーーニューアルバム『ku ru i』がリリースされました。まずは前作『EGO APARTMENT』以降の2年間について聞きたいのですが、メンバーのみなさんにとってはどんな時期でしたか?

Dyna:「若手なのに2年もアルバムを待たせてすいません」という気持ちもありますけど(笑)、すごく意味のある2年間だなと思っていて。ライブを重ねるなかで、「僕らが本当にやりたい音楽は何なのか?」「音楽を通じて、世に何を発信していきたいのか?」ということを考えて。サウンド的なことだけではなく、3人の思想的な部分も音楽に落とし込みたいと思ってたんですよね。あと、前作のアルバムはシングルを集めたというか、「曲数が増えたからアルバムにしようか」という感じだったんですよ。今回はまったく逆で、まずテーマを決めてから、それに沿った曲を作っていったんです。そのなかで3人とも成長できたし、『ku ru i』はこの2年間がなかったら生まれなかったアルバムだと思います。

Shu:いい感じに力が抜けてきたと思いますね。以前はやりたいことを全部詰め込もうとして、上手くまとまらないことが多かった気がして。「この音を聴かせたい」「この音は要らない」みたいな判断って時間をかけてやったほうがいいと思っていて、今はちゃんとそれができているので。あとは「前と同じことをやってもしょうがない」という気持ちもあるし、「ライブでやるとカッコよさそう」とか、いろんなアイデアで作るようになったんですよ。前作は「こんな感じだと聴いている人が楽しいかな」ということも考えていたけど、まずは僕らが好きなように作ったほうがいいなと。

Zen:DynaとShuが言ったようにチャレンジとか成長を感じられる2年でしたね。前作に入ってる曲は室内で作っていたし、そのときのヴァイブスを重視していたんだけど、ライブを通して曲の体感や表現の仕方が変わったり、いろんな変化があって。今回は「3人がやりたいサウンドをどこまで引き出せるか」をさらに突き詰めたと思います。

ego apartment

ーーなるほど。先ほどDynaさんが言っていたアルバムのテーマは、いつ頃決めたんですか?

Shu:最初にアイデアをくれたのは、確かZenだったと思います。

Zen:前作のアルバムは“高みを目指す”という感覚があったんですけど、3人のジャーニーがどうなっていくのかを考えてたときに、“宇宙船が水の惑星に降りて、沈没した”みたいなイメージが浮かんできて。そこからストーリーを組み立てて、それに沿って1曲ずつ作っていった感じですね。

Shu:その宇宙船の中でいろんなことが起きたり、それが聴いてくれる人の人生にリンクするような瞬間があったり。そういうことをやってみようという話だったと思います。1年かけて作っていくなかで、少しずつ形態を変化させながら制作して。あえて荒廃した世界を思い浮かべて歌詞を書いたり。 

Zen:韓国でライブしたとき、『ku ru i』の収録曲を)2曲くらいデモ音源の状態で演奏したんですよ。そのときからアルバムのコンセプトは意識してたんじゃないかな。

Dyna:うん。アルバムの1曲目の「Nautilus & Nemo」と4曲目の「mad cooking machine」が確か最初のほうにできたのかな。この2曲を基盤にして広げていった感じだと思いますね。特に「mad cooking machine」を作ったことで、3人のなかで世界観を共有できた感覚がありました。サウンド的な部分もそうですけど、Zenはビジュアル的なセンスもすごくあるし、脚本というか、ストーリーを組み立てることもできて。それを僕はすごく信用しているんですよ。Shuからも影響を受けているし、2人から「こういう世界観でやりたい」と聞いたときも、すぐに「面白そうやね」という感じで乗っかりました。

ーー3人ともSF映画が好きなんですか?

Dyna:そうですね。いちばん詳しいのはZenなので、いろいろ教えてもらっていて。僕は『マトリックス』『インターステラー』などの王道の映画が好きなんですけどね。僕とZenが『マトリックス』に出てくる台詞をしゃべったりしてたら、最近になってShuも観てくれて。今は3人とも同じ世界線で会話できてます(笑)。

ーー『マトリックス』のどんなところに惹かれているんですか?

Dyna:グラフィックやアクションも見どころだと思うんですけど、僕らがいちばん魅力的に感じているのはディストピア的な世界観だったり。『マトリックス』は25年前の映画ですけど、AIなどが進化して、現実に起きてもおかしくない状況になってると思うんですよ。そういう時代背景を含めて、令和の僕たちだからこそ伝えられることがあると思うし、それもアルバムに詰め込んでいますね。現実を踏まえて、SF映画からインスピレーションを受けながら音楽に昇華するというか。

Zen:事実ばかり述べてもパンチがないと思うんですよ。人に何かを伝えるときにフィクションが持つパワーってすごいと思うし、その部分も取り入れたくて。映画だけじゃなくてアニメや漫画にも影響を受けているし、「そのポイントって何だろう?」と追求するなかで、「コンセプトアルバム的な作品を作る」ということにつながったのかなと。

Shu:うん。リリックのなかには、比喩を使いながら、現実の社会を突きさすようなフレーズもあって。僕らが普段感じているような不満じゃないけど、そういう部分を代弁するのも僕たちの職業の役割だとも思ってるんですよ。フィクションを用いながら、今の社会のなかで感じる違和感みたいなものを僕たちなりのメッセージとして発信するというイメージですね。

Dyna:普段からそういう話をけっこうしてるんですよ。ふざけたり、たわいもない会話もしてるけど(笑)、政治の話を真剣にすることもあって。僕とShuは日本語の情報しか得られていないけど、Zenはネイティブな英語がわかるので、英語圏から見た世界情勢についても教えてくれて。3人で話していることは自然とリリックや音に落とし込まれていると思います。もちろんそれぞれの好きな音やルーツもあるし、さっき話した通り、ライブのなかで得られたものもあって。「今の現状でやれる、最高にカッコいい音楽は何か?」を突き詰めたのが『ku ru i』ですね。

Zen:デモ音源を含めると、かなりの曲数を作ったんですよ。

Dyna:結局7曲くらい削ったからね。

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