indigo la End「名前は片想い」2度目のバイラルヒット到来 バンドの本質とキャッチーさが導く黄金比
indigo la Endの「名前は片想い」が、2度目のバズを起こしている。
2022年11月の日本武道館公演の最後に初披露され、昨年1月25日に配信された「名前は片想い」。リリース時に川谷絵音が「バンドとしての強度が次のフェーズに到達したと実感出来た曲」とコメントしたこの曲は、発表直後からSNSやストリーミングを中心に大きな注目を集めた。同年3月にはストリーミング1000万回再生を記念してパシフィコ横浜 国立大ホールで行われたライブ映像を公開。高石あかり、羽音が出演したMVの再生回数も1250万回を超え、Spotifyの再生回数だけでも3500万回を超えるなど、彼らにとって最大のヒット曲となった。
そして今年の春、「名前は片想い」は再びバイラルヒットを巻き起こしている。TikTokでトレンドとなっているのは、間奏後の3度目のサビ(落ちサビ)の〈曖昧な関係の名前は片想い/賢くなった私って誰〉のドラムのリズムに合わせてカメラの角度を変える撮り方。人気インフルエンサーたちが次々と動画をアップし、「TikTok Weekly Top 20」(5月8日公開)の8位に再登場するとその後も6位へとランクを上げるなど、好成績をキープしている。さらにInstagramにも波及、トレンド楽曲入りを果たした。この楽曲とSNSの親和性の高さをあらためて実感できる現象と言えるだろう。
今や一時のトレンドを超え、タイムレスな人気曲になりつつある「名前は片想い」。この曲の最大の特徴は、indigo la Endの音楽的な独創性と幅広いポピュラリティが絶妙なバランスで共存していることだ。華やかで切ないバンドサウンドが鳴り響くイントロ、そして、〈一目惚れだったよ/だから怖かったな〉というラインによって聴く者を楽曲の世界へと導き、予想を気持ちよく裏切る楽曲展開とアレンジのアイデアによって、何度もハッとするような瞬間が訪れる。刺激的な新しさと“何度もリピートしたい”という中毒性がしっかりと融合しているのだ。
キャッチーに振り切ったサビのメロディも魅力的だが、この楽曲は2度もバズった最も大きな要因はやはり歌詞だろう。〈曖昧な関係の名前は片想い〉というサビのラインはリスナーの想像力に訴えかけ、それぞれの体験や境遇とリンクするはず。シス男性とシス女性の恋愛だけではなく、あらゆるジェンダーや性的志向、もしくは友人、兄弟、家族などにも当てはまる普遍性の高いフレーズだからこそ、このサビは多くのユーザーの共感を獲得し、SNSなどでも拡散を続けているのだと思う。キャッチコピー的なインパクトと覚えやすさがあるのも、このフレーズの強みだ。
〈いつも悲しいけど/明るく歌ったよ/わかって欲しいけど/わかって欲しくもない〉という歌詞も印象的だ。「名前は片想い」が収録されたアルバム『哀愁演劇』のステイトメントのなかで川谷は「哀愁を演じさせたら右に出るものはいない。その信念を持って作り続けました」とコメントしていたが、明るくてポップな佇まいの楽曲にも必ず哀愁や切ない感情が滲むのは川谷のソングライティングの特徴であり、それがいちばん強く反映されているのが、indigo la Endなのだと思う。つまり〈いつも悲しいけど〜〉には、このバンドの本質的な部分が込められているのだ。