ヤン ナリ、ましろ爻、壱百満天原サロメ、卯月コウ……にじさんじ「FOCUS ON」はライバーの核を表す名曲だらけ

壱百満天原サロメ「オシャレギ」

 2023年7月にリリースされた「オシャレギ」は、壱百満天原サロメがセルフラブを歌うことで優しいメッセージ性を放つ楽曲。サロメは、「ですわ」を語尾につけた高いトーンのお嬢様口調がトレードマークのライバーだが、実際はお嬢様を目指す一般女性。胃カメラの内視鏡画像の公開などで注目を浴びた初配信では、同時に学校になじめず引きこもりや大学中退を経験し、「自分がこの世界にいるのは間違っている気がしていた」ことを明かしつつも、配られたカードで勝負するしかないと腹をくくり、VTuberとして“百満点のお嬢様“を目指すに至ったと、ライバーとしての核となる思いを語っていた。「オシャレギ」は、そんな葛藤を抱えながらも、なりたい自分の姿を掲げて活動するサロメが歌うからこそ響く曲。〈誰が何を言ってもあたしはあたし〉〈胸張ったあたしに 愛しいloveな自分になれるわ〉〈自分次第 かわいい未来〉と全力で自分を肯定する歌詞からは、自分の心をケアして心地よく生きようとするサロメの姿が浮かび上がり、同時に、同じような生きづらさを感じている人たちへ向けた応援歌のようにも感じられる。

卯月コウ「何者」

 最後に触れたいのは、2023年9月にリリースされた「何者」。本楽曲は、直接的に何かを描いているというよりは、卯月コウを主人公にした物語を想起させるような深みを持っている。男子中学生のコウは、まるで友達のような雰囲気で視聴者と深く語り合うライバーで、何気ない日常の話からゲームの話、コアな性癖の話、そして自分のアイデンティティに関する話など、様々な話題を繰り広げる。自分の考えを細かく的確に表すのが得意な彼の言葉は、時に青春時代の苦い記憶を呼び起こし、時にナイーブな感情を無遠慮に刺激する。配信を見終わった後は何かが胸に残る感覚を味わうことも少なくない。そんなコウの「何者」は、「アイドルマスター」シリーズや「あんさんぶるスターズ!」などの楽曲制作者でもある本多友紀(Arte Refact)が手掛けた、まさにアニメのテーマ曲のような疾走感溢れる楽曲。何者でもない自分の存在を受け止めて前へ進もうとする姿を詩的に描いた歌詞は、聴く者の心を切なく揺さぶりながらも勇気を与えてくれる。聴いた後に、コウの言葉と同じく胸に残る余韻は、真夜中に意味もなく走り出したくなるような青臭い衝動を掻き立てる。

 ライバーのストーリーは長時間の配信などを通して日々更新されていくものだし、他のライバーと接することで新たな一面を発見することも多い。「FOCUS ON」は、常に変化していくライバーの輪郭の一部を音楽で切り取り、作品として残していくプロジェクトだ。約200名ものライバーから、次にフォーカスされるのは誰なのか。そして、どんな角度からその魅力を照らしていくのだろうか。

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